30代女性の不安、楽しみ、怒りなど、日常の細やかな感情をリアルに描いてロングセラーとなっている四コマ漫画『すーちゃん』シリーズ。その作者、益田ミリさんは、現在mi-mollet世代と同じ48歳だが、40代に突入したとき、「美しいものを見ておきたい!」、そう急き立てられ一人で団体ツアーに参加し始めた。行きたいところややりたいことはいっぱいあるけれど、「一緒に行く人が見つからないし……」「休みを取りにくいし……」と、ズルズル叶えられないままになっている人は多いはず。でも人生は一回きり! 後悔しないためにも行動あるのみ! そこで益田さんに「行動する勇気の持ち方」、教えてもらいました!
益田ミリ 1969年生まれ。大阪府出身。イラストレーター。2006年からスタートした『すーちゃん』シリーズが注目を浴び、2013年に『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』のタイトルで映画化される。他にも主な著作に『週末、森で』、『泣き虫チエ子さん』などがある。またエッセイも人気で、『女という生きもの』、『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』など多数。
40代になったとき「ツアーひとり参加」を決意
本やテレビで見てきた美しい景色、楽しそうなお祭り、美味しそうな食べ物……。「見てみたいなあ、食べてみたいなあ」と思いつつも、「でも行くことはないんだろうなあ」と何となく諦めていたという益田ミリさん。が、40代になったとき、「人生は一度きり!」と行動することを決意した。とはいえ海外ひとり旅は心細い、語学力も不安……。そこで益田さんが選んだのが、思い切ってひとりで団体ツアーに参加する、というものだった。
「決意というまで強くはなかったんです(笑)。ただ、本当に漠然となのですが、美しいものを見ておきたいなぁという気持ちが湧き上がってきて。20代、30代にも海外旅行はしましたが、飛行機とホテルだけが決まっている簡単なツアーで、現地では自由行動というのがほとんどでした。友達とパリで美術館をまわったり、雑貨屋めぐりをしたり。ガイドブック片手にあちこち歩き回るのも楽しい旅でした。ただ、40代は、そうではなく、いつか見てみたいなぁ、でも、見ることはないんだろうなぁと思っていたような、そんな世界の美しいものを見に行く旅がしたいなと考えたんです。とはいえ、海外ひとり旅はやっぱり不安で。団体ツアーにひとり参加するのはどうかな? と思ったんです」
とは言うものの、まわりが友達同士や夫婦、カップルという中、ひとりでツアーに参加するのはなかなか勇気がいるものだ。益田さんも「さみしそうに見られてしまうのかな」と躊躇し、決断するまでに1年を費やしたという。
「やはり、人の目って気になるものですから(笑)。でもそうこうしているうちに41歳になりまして、よし、そろそろ行こうと。『北欧にオーロラを見に行くツアー』に申し込みました。オーロラって、一度でいいから見てみたかったんです。参加してみると他にもおひとり参加の方がいらっしゃるし、あれ? 案外いけるかも? みたいな感じでした。団体で食事をとるときも、添乗員さんが『ここに入れてあげてくださいね~』なんて、いつも気を配ってくれましたし」
居心地のいい空間を作るスキルがあるのが40代
もちろん益田さん自身も、一人でも居心地よくいられるよう「小さな演出をした」という。
「初めてツアーに参加したときは、“さみしい人”と思われないよう、『いや~、友達が急に来られなくなりまして』なんて小芝居……いえ、演出を(笑)。参加者のみなさんも、そう言われれば変に気を使わなくていいかなと。実際、ちょっと場が和んだ気がします。自分がその場で心地よくいられることが大事ですし、それくらいの演出はいいんじゃないかなと思います。他にもいろいろしましたよ。この7年間、ツアーで何カ国か周りましたが、“旅のメモをとるのが好きな人”とか“風景写真を撮るのが趣味な人”とか、そんなキャラクターを設定したら、みんな、『あの人、ひとりだけど楽しんでるな』というふうに見てくれるものです。そうやって、どんどんひとり参加に慣れていきました」
なるべく自分が居心地いいように工夫する――。それは様々な経験を積んできた40代だからこそできたことかもしれない。
「20人くらいの参加者を目の前にすると、一瞬『ワッ!』と思いますけど、学生時代だってクラスの人全員と仲良くなってたわけじゃないですよね。自分が『あの人、好きだな』と感じた人たちと、人間関係を作っていたと思うんです。それと同じで、ツアーも全員と仲良くなろうとする必要もなくて。たとえば、食事のときは、しゃべりやすいと思った母娘ペアの近くに座るとか、優しそうなご夫婦と同じテーブルにつくとか。反対に、苦手かもという人とは、さりげな~く離れるようにするとか。そういうことも、自然にできるようになっているのが40代なのかもしれませんね」
20、30代とは大きく変わっていた自分……
そうして北欧のオーロラ、リオのカーニバル、台湾の平渓天燈祭など、41歳からの7年間で計5カ国をまわった益田さん。その模様をまとめたエッセイ『美しいものを見に行くツアーひとり参加』(幻冬舎)が9月に発売された。そこに綴られている“自分仕様の旅”には、日常でも自分が居心地よく居るためのヒントがたくさん詰まっている。それにしても、「美しいものを見ておきたい」という気持ちがわき上がったタイミングが、なぜ40代だったのだろう?
「体力のあるうちに、という気持ちはあったと思います。元気なうちに行っておかないと!と。30代後半のときには、40代という未知の世界への焦りもあったのかもしれません。今48歳ですけど、意外に元気だな、と思います(笑)。旅に出ることによって、自分を変えたい、こうなりたいという理想もなく、本当にただ行きたいなという気持ちでした」
「素敵に年齢を重ねたい」、「いつまでも輝いていたい」と、頑張りすぎて疲れている読者も多い中、「とくにこうなりたいという理想はない」という率直なひと言は、とても印象的だった。それゆえ「見たいものを見る」、そんなシンプルな気持ちで40歳からの“女ひとり旅”を始めた益田さんだったが、いざ体験してみると、20代、30代での旅とは大きく変わっていた自分に気づいたという。
「一番違うのは、お土産の量ですかね。ずいぶん少なくなってました。特に20代の頃は、お土産を買う、という行為が旅の中のかなりの割合を占めてました。誰と誰のぶんは買った、しまった、あの子のぶん忘れてた! みたいに。自分のものもあれこれ欲しいから、もう大変です。もちろん、それはそれはで楽しかったんですけれど、40代の自分の旅のテーマは、『美しいものを見る』。シンプルなので、買い物、買い物という気持ちがおきませんでした。団体ツアーのいいところは、目的地までの移動のロスがないこと。そのぶん体力も温存できますし、夜、ホテルでゆっくり日記を書く余裕もあって、こういう旅もいいものだな思いました。その日記をまとめたものが、新刊の『美しいものを見に行くツアーひとり参加』という本なんです」
世界を見て、日常の美しさに気づいた
自身の変化の発見は、旅の最中だけでなく帰国後にもあったという。
「わたしには団体ツアーがある、と思うと、テレビの旅番組の見方も変わりました。秘境などでも、『行けるかも?』なんて見ている自分がいるんです。子供時代、アルプスの少女ハイジが好きだったんですけど、アルプス山脈なんてものすご~く遠い存在で、一生行くことはないだろうという思いで見ていました。それも、ひとりで行けてしまうと思うと元気がでます。あ、もちろん団体ツアーですけれど(笑)」
ツアーへのひとり参加という勇気を持ったことで、想像以上に世界が広がったよう。でも何より大きかった収穫は、『私たちは美しい世界に生きているんだ』と気づけたことだったという。
「北欧でオーロラを見ると、それはそれは感動するわけです。感動して日本に帰ってきますよね。そうしたら、不思議なんですが、『オーロラもきれいだったけど、日本で見る夕焼けもきれい』なんて、以前より夕焼けにうっとり見ほれているんです。美しい世界で生きているんだなぁと思えたのも、わたしにとっては意味のあることだったと思います」
思い切って世界中を旅したことで、身近な“美しいもの”に気づいた益田さん。ささやかな幸せは、決してささやかな行動で手に入るものではないのかもしれない。皆さんも、益田さん流“行動する勇気の持ち方“を参考に、諦めていたことをぜひ行動に移してみては? 想像以上に世界が広がるかもしれません!
<新刊紹介>
『美しいものを見に行くツアーひとり参加』
益田ミリ 著 ¥1300(税別)幻冬舎『すーちゃん』シリーズで人気の益田ミリさんが、ひとりで参加したツアーの模様を綴ったエッセイ。北欧のオーロラ、ドイツのクリスマスマーケット、フランスのモンサンミッシェルなど、計5カ国で見たもの感じたものを、益田さん独特の、ほのぼのとしているけれども感性豊かな表現で綴っている。新しいことに挑戦するのを避けがちになる40代。でも行動すれば必ず素敵な発見がある!と勇気をもらえる1冊だ。
取材・文/山本奈緒子
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