この三連休、ストリートにほどこされるステンシル作品(ちなみに取り締まりが厳しくなったストリートグラフティを現代の監視カメラシステムの目をくぐりぬけて成功させるのはスプレーを使うより、ステンシルで一気に仕上げた方がいい、とインタビューで答えています)で世界的に有名なバンクシーのオークション作品のシュレッダー騒動がSNSを賑わせました。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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風に吹かれた少女がハート形の風船を手放してしまうこの作品は、バンクシーの中で珍しくシニカルな視点がなく、とてもピュアなメッセージの作品で、ゆえに海賊版のポスターやポストカードにもっとも複製されているとも思われ、結果的にいちばん有名な作品なのではないかと言われています。

落札のハンマーが鳴らされた直後、額に仕込まれたシュレッダーが起動し、作品が裁断されました。とはいえ、途中で停止していることからも(完璧主義のバンクシーが自身のInstagramで発信したことからも想定内だったはず)、本当に作品を抹消したかったわけでもなさそうだな、と。案の定、この騒動により、絵画の価値は50%以上あがると分析されています。だって複製が容易なステンシル作品が、これで唯一無二の作品へと変容したわけなので(ちなみにバンクシーは署名しないことでも有名です)! 「アートの価格って、こんなことでたやすくも高騰してしまうものなのだな」とも思うわけですが。

詳しくはコチラ>>>バンクシーの絵、1億5000万円で落札直後にシュレッダーで裁断。なぜ? HUFFPOSTより

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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キャプションにはピカソの言葉が添えられていました。"The urge to destroy is also a creative urge(破壊衝動もまた創造の衝動である)"-picasso 

この件に関しては、オークション関係者との共謀説が有力になってきているようです(「額装の不自然さに気づかないなんてありえない」というのが主な論拠)。主催者が「banksy-ed(バンクシーされてしまった)」とコメントを発表したようですが、この騒動のポイントは誰も傷ついていないところにあるように思うのです。世界中の人がSNSで拡散し見事にバズッたことで、バンクシーも落札者もオークション開催者も……「全員が勝者!」で見事にエンディング。今回の件に関しては、私は大晦日のダウンタウンの『笑ってはいけないシリーズ』を見せられたような気持ちにすらなりました。

2016年。フランスの都市にあるカレーのシリア難民キャンプに出現したスティーブ・ジョブズの絵を描いたバンクシーの作品。シリア移民の父を持つ故ジョブズを難民風に描いたことで世界的な注目を浴びました。写真/アフロ


個人的には「作品自体が好き!」というより、その「卓越したコミュニケーションデザインの能力がすごすぎる!」とバンクシーを観察しています。それまでは名前と数点の作品を知っている程度だったのですが、このジョブズの作品で俄然興味が湧きました。難民にとっては「この壁の外にさえ出ればあなたもジョブズのようなヒーローになれる」という激励になるし、外側にいる私たちには「この中に未来のジョブズになる可能性がある人間を閉じ込める権利はあるのか?」という痛烈な批判をしているという……当時、たしかクリエイターのいとうせいこうさんが「問題が起きてからの対応の早さと、ひとつの絵で社会にある問題のすべてを語り尽くすという力量はさすが」というようなことをどこかに書かれていたように思います。

この年には、バンクシーが1日1作品をNYの街中のどこかで発表するという1ヶ月を追った映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』という作品も公開されました(製作は2014年)。コチラは、無数のTwitterのつぶやきと第三者によるYouTube、Instagramなどの投稿で編集されている作品です。バンクシーがSNSを利用することに長けたアーティストであることがよくわかります。

バンクシーは絵画(時に言葉によるメッセージやオブジェ)で、誰もが気づいているのに見て見ぬ振りしている社会にある問題をシニカル、かつユーモアたっぷりに、そして見事なまでにストレートなメッセージを放ちます。そして、それを私たちは喜んでインターネットやSNSを使って拡散。バンクシーのメッセージはそうやってどんどん世の中に伝播していくのです。

今回のシュレッダー騒動に関しても、「高値で美術品を取引するオークションに対するバンクシー流の挑発だったと見られる(HUFFPOSTより)」ということがバンクシーの狙いだとしたら、予定通りの展開になったと言えるのでしょう。

2013年に発売されたカウンターカルチャーの出版社として有名なカーペット・ボミング・カルチャーによるバンクシー作品集の邦訳版『BANKSY YOU ARE ACCEPTABLE LEVEL OF THREAT』です。ちなみに、この出版社の理念は、「親愛なる読者のあなたに、高品質のアートと痛烈かつ極度に主観的な解説をちりばめたフォト・ブックを提供することで、21世紀の日常となったゲリラ戦を生き抜く一助となること」とのこと。確かに極度に主観的な内容です(笑)!


こちらの作品集の帯の文言がバンクシーという存在を端的に表現していると思うのでコチラを紹介し、コラムを終わりにしたいと思います。

バンクシーはストリート・アートの思想家だ。そうじゃなきゃ、こんなグラフティを描かないだろう? 図像やデザイン、コミュニケーションを用いて、権力の大部分がどれほど茶番なのかということを示すのだ。権力の仰々しさを笑い飛ばすことで、その力を弱めて、自分自身が思考する思考をこじあける。
 

今日のお品書き
熊倉正子さんが2019春夏のパリコレクションを総括してくれました。私のNo.1のコレクションはヴァレンティノだったので、かぶっていてうれしかったです(笑)。ピックアップされているピンクのドレス、私もリゾートで着てみたいなぁ~(ウットリ)♡