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文学部哲学科…。花の女子大生時代を、かなり渋路線で過ごした私。
就職には最も不利な学科と評されていたわけだが、今となっては、そこで学んだことが、ふとフラッシュバックしては、生活に活きていることが往往にしてある。
その一つに、「トリックスター」がある。

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【トリックスター】

[名詞]神話や物語の中に登場するいたずら者。神や自然界の秩序を乱すことで、物語を展開させていく。善と悪、破壊と生産、賢者と愚者など、矛盾した性格の持ち主で、対立する2つのものの仲介・媒介の役目を果たす。

引用:ウィキペディア/大辞泉より。

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教授は、その頃放送していた、吉田拓郎とKinki Kidsがメインキャスターを務める「LOVE LOVE愛してる」という番組を例に出して、その中に登場する、篠原ともえがまさにトリックスターである、と説明された。


ベルギーでのレストラン遊学時代の終盤、「日本へ帰ったら、レストランのマダムをやりたい!」と意気込んでいた頃、地元のデコレターの友人とアンティーク屋巡りをしては、レストランで使えそうなものを物色して、妄想を膨らませていた。
あるアンティーク屋さんに入ったとき、友人が、「こういうのを置いたらいい!」と、ピエロのようなとぼけた顔をした少年の像を指して言った。そのとき、私は、その良さが解らず、適当に流してしまったが、友人は、「こういうのがキャッシャー脇とかにちょこんといるといいんだよ…」と名残惜しそうに言っていた。

それから10年余りが経ち、未だ、“レストランマダム”の夢は叶えられていないわけだが、ベルギー時代に覆された様々な概念は、無意識のうちに私の中に刷り込めれていて、今もなお薄れることなく、むしろ、過去の記憶とリンクして、より濃く確信へと繋がっている。
ベルギーの友人が薦めた、とぼけた少年の像は、レストランにおいての「トリックスター」だったのである。キャッシャー脇という、お客様が、美味しい食事に囲まれる“夢”の世界から、お金を支払うという味気ない“現実”に引き戻される場において、少年のとぼけた表情は、夢の余韻を感じさせる恰好の役割を担っていて、お客様は、夢と現実の間で会計をすることになるのである。
 

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そんなわけで、実用度でいったら30%くらいでも、ちょっとクスッとしてしまう愛嬌のあるものに惹かれてしまう。
最近のお気に入りは、おろし金の“シャリシャリくん”!
毎日毎日襲ってくる「食事の準備」という任務も、シャリシャリくん使いたさに、「れんこんのすり流しはどうかしら?」と献立が決まることがある。焼き魚の日は、台所でおろしておけばいい大根も、シャリシャリくんと共に、あえて食卓に並べて、卓上で大根をおろす行為を食事の時間の中に組み込めば、会話の内容が一つ増えるし、良いアペリティフになる。

「便利!時短!手間なし!」と実用度80%以上のものばかりに囲まれた味気なさに気がつくと、時々、そんな愛嬌のあるものに助けられることがある。
まさにそれは、日々の生活の中の“トリックスター”なのである。

“Trick or Treat!”なんて言ってる、そこのあなた!
たまのTrickも、そう悪くはないものです。

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◯今日のトリックスター・・・田中千絵 おろし金“シャリシャリくん”
撮影/白石和弘