手作り好きなマダムたちは、だいたい皆、ジャムを作る。作るとなったら、だいたい大量に仕込む。春にはイチゴ、初夏には梅やルバーブや一瞬出回る杏、夏にはマーマレードやブルーベリー、秋には栗やいちじく、冬は金柑やレモン。

私のまわりにも、そんなジャムおばさんが沢山いらして、私も嫌いではないものだから、ついついいただいてしまう。それがまた、お彼岸どきに咲く彼岸花のように、カレンダーに“ジャムの日”と印でもつけていたかのように同じタイミングでドドドッとジャムが集まったりする。どれもお家の個性があって、美味しいのですが、1週間もすれば、ちょっと他の味を浮気したくなり、そんなことが3~4瓶重なると、ふと、3週間ほど前に開けたジャムの表面に、うっすらカビが生えているのを発見して、泣く泣く「神様、ごめんなさい」と流しに葬るのである。

結婚をして、私にはもう一人、ジャムおばさんが増えた。義理の母である。息子夫婦の食生活を想って、度々送ってくださる手作り調味料やジャムをいつもありがたく頂戴しているのですが、今年いただいたいちじくジャムを、うかつにもカビさせてしまった。実を言うと、今までは、ジャムをカビさせてしまうことにそこまで大きな罪悪感はなかったが、義理の母のジャムとなると、どうにも心が痛んだ。

捨てるのも忍びなく、ふっと思いついたのが、以前、お菓子の本の撮影で作り方を知った、ガトーバスク。中にダークチェリーのコンフィチュールを入れるのが伝統的なもののようで、それなら他のジャムでも応用できるのではないか?と思い、カビの乗ったジャムの表面を取り除いて、ブランデーと共にもう一度火を入れて、“アルコール消毒”&“加熱殺菌”!?を施し、ガトーバスクの生地の中に隠して、オーブンで焼いてみた。

そうすると、ちょっとお酒の効いたなんとも洒落たお菓子になった。さすがに人には差し上げられないから、少しづつ切っては、朝のおめざに…、お十時のお供に…、3時のおやつは…、夜のお茶に…、とちょっと贅沢な自分のおやつになって、すっかり消費してしまったのである。

これはしめしめと、最近では、カビる前のジャムを仕込む(←これが本来)。
 

 

今日、友人から、りんごが一箱届いた。「完熟りんごですので、お早めにお召し上がりください」。夫婦2人でとても消費できる量ではないから、私も、いよいよジャムおばさんデビューかな?と思う。

ただし、素穂ジャムおばさんなりの方針としては、

+1週間ほどで消費できる小瓶(5つまで)に小分けする。

+それでも余ったものは、ジップロックコンテナーで冷凍保存。

+人に差し上げる時は、余ったジャムの救済措置を添える。

そうすれば、“ジャムおばさんの襲来”にはならないのではないかな?と思う。

◯今日の“ジャム救済措置”
ブランデー風味のジャム入りガトーバスクをデルフトの器にのせて。
 


<ジャム入りガトーバスク>

[材料]
バター 85g
粉糖 85g
卵 1個
薄力粉 210g
ベーキングパウダー 小1/3
ジャム 100gくらい
ブランデー 大3

[作り方]
1、 ジャムをひと煮立ちさせ、火を止めブランデーを混ぜ合わせる。オーブンを170℃に予熱する。

2、 室温に戻したバターと粉糖をボウルに入れ、泡立て器ですり混ぜる。

3、 卵を溶いて、大1を残して、2に加える。

4、 薄力粉とベーキングパウダーをふるい入れ、ゴムベラで粉気がなくなるまでざっくり混ぜ合わせる。

5、 型の内側にバターを塗り、薄力粉をはたく。型に4の生地を半分敷き詰め、1のジャムを真ん中にのせ、残りの生地で蓋をし、表面を整え、残しておいた卵を指で塗る。

6、 ナイフで表面に線を引き、オーブンで40分こんがり焼き目がつくまで焼く。

(参照:「大人のほろ酔いスイーツ」若山曜子著(産業編集センター)より)

 

撮影/白石和弘