『シンプルに生きる』SNS上の自分でなく、素の自分に満足するためには?
メールしても、ブログに書いても、ツイッターでつぶやいても、
2ちゃんねるに悪口を書き込んでも、
誰も反応してくれないとしたら……。
すると、そわそわしたり、イライラしたり、落ち込んだり……
そう、麻薬が切れたときのようになってしまうことでしょう。(中略)
まさにしょっちゅうメールがきて、
しょっちゅう好ましい反応があることを通じて快感漬けになり、
快感の量が多すぎるがゆえに
快感が飽和して不感症になり、
不幸になっているのです。つまり、本当の不幸は
コミュニケーションについての欲望が満たされないときではなく、
満たされすぎたときにこそ始まります。
(中略)
それは、過保護な親に甘やかされすぎた子どもが、
何でもかんでも欲求が満たされすぎて快感が飽和し、
かえってイライラしやすくなるのと同じ仕組みと申せるでしょう。
― 小池龍之介、僧侶・随筆家、
『3・11後の世界の心の守り方』ディスカヴァー・トゥエンティワンより
人間の行動パターンは時代ごとに自ずと変わっていくものですが、インターネットほど劇的に私たちのライフスタイルを変えたものはないでしょう。メールは来てはいないか、フェイスブックの評価は落ちてはいないか、最新のニュースの動向は?と、私たちは1時間に何回もスマートフォンを覗いてはチェックをしています。
私たちはどうしてこれほどまでに何でも「知りたい」と思うのでしょう。個人的にはさして必要でもない情報をどうして浴びるように取り込むのでしょう(これらの情報が真実であるということがまずは大前提ですが)。
一方SNSは、ネットを介して自分のアイデンティティや個性を伝える手段と言えるでしょう。これらのネットワーク上で、どのくらい自分を出すかはお友達づきあいの程度で変わりますが、おおむねいつもの自分とは違う「作られた自分」を演じ、しまいにはその虚構の自分を信じるようになっていきます。
日本では、インスタグラムに載せる写真をコーディネートしてくれるプロの業者も登場しました。ここに申し込むと、設定したとおりに写真を撮ってもらえます。まったく初対面のスタッフが「取り巻き」を演じ、場所は洒落たカフェ、空港や高級レストラン、料理も味より見栄えのよいものを注文します。こうして撮られた写真はSNSに投稿されるわけです。
それは、まるで「私はこんなにも綺麗で、素敵な仲間がいて、これだけハッピーな時間をすごしているのよ」と、世界に向けて発信しているかのようです。これは極端な例としても、自分の仮想イメージを作り上げていくことがエスカレートしていくと、すでに受け入れ難くなっている現実の生活がますます受け入れられなくなり、それが苦しさを増す原因になるのです。
こうした現代社会が生んでいるストレスと孤独の問題を、一気に解決してくれる方法などないでしょう。それでも「今の自分に満足することを学ぶ」、これができるようになると、不思議と心に落ち着きを取り戻せるようになります。確かに私たちは社会的な存在なので、人との交流がないと生きていけないと思うのかもしれませんが、今の先端技術は「つながり」からくるストレスを激化させている気がします。
人生を成功させるツールとして私たちが携えるべきものは、人真似ではなく、自分に見合った自分だけの成功の定義ではないでしょうか。自分をつねに他者と比較することはやめたいものです。
ドミニック・ローホー
著述家。フランス生まれ。ソルボンヌ大学で修士号を取得し、イギリス、アメリカ、日本の大学で教鞭を取る。モノにとらわれず心豊かに暮らす「シンプルライフ」を自ら実践。それを本にまとめた『シンプルに生きる』(講談社+α文庫)が欧米、アジアでベストセラーに。他に『シンプルリスト』『「限りなく少なく」豊かに生きる』(ともに講談社)など著書多数。また禅や墨絵を通して日本の精神文化に理解が深いことでも知られる。
<新刊紹介>
『バック・トゥ・レトロ 私が選んだもので私は充分』
ドミニック・ローホー 著 原 秋子 訳 1200円(税抜) 講談社
自ら実践する「シンプルな生き方」を発信し、フランスをはじめ欧米やアジア各国で、著書が累計250万部を超えるベストセラーに。本書には、「今いる場所で幸せになるヒント」「より良い運命の軌道に乗る秘訣」が綴られています。ものや情報があふれ、競争が競争を呼ぶ世界に私たちはいます。豊かではあるけれど、心は昔より「軽く」なったとは思えません。だからレトロに注目したのです――過去のよい記憶として残っているものは、イコール、シンプルな生き方のお手本になります。持ちものから、人間関係、ネットの情報、そして心の整理まで、生きる喜びをより感じられる上質な暮らしのために、ドミニック・ローホーがアドバイスします。
(この記事は2018年12月12日時点の情報です)
構成・文/柳田啓輔 (編集部)
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