ゲストブックから始まる物語。_img0
 

先日、久しぶりに我が家に人を招いた。
毎年12月頃、日本で展示をなさっているフランス在住の木工作家さんに椅子のオーダーをして、その納品がてら、夕食にお招きしたのだ。せっかくだから、あの方も、この方も、と欲張ったら、9人にもなってしまって、机も椅子もお皿も足りなくて、家中からかき集めて、黒い大きなテーブルクロスで覆って、家の照明を暗くして、なんとか体裁を整えた。

お出しする料理はというと、お気に入りのイタリア食材屋さんに大きなお皿を預けておいて、ハム盛り合わせを作っておいてもらうのと、よくしていただいている近所のお魚屋さんにカルパッチョ用の白身魚とメインの魚介をベストな状態に仕上げておいてもらうことをお願いしておけば、半分はできたようなもの。信頼のおけるお店が数件あれば、お抱え名コックと厨房を家外にもっているような心強さである。

とはいいながら、優雅にお客様をもてなしできたかというと、そうでもなくて、バタバタと終始せわしなく、テーブルと台所を行き来することになってしまったのだが、台所で作業をしながら、ケラケラと聞こえてくる楽しそうな笑い声は、お招きした側としてはとても嬉しいBGMだった。

そして、宴も酣。差し入れていただいたタルトタタンをいただきながら、お茶の時間の頃、自慢のゲストブックを取り出して、皆に書いていただいた。

父がドイツ留学時代に使っていたゲストブックが実家にはあって、腎臓専門の研究医というマニアックな父の友人達もまた変わり者ばかりだったようで、そこに綴られた、それはそれは個性的なコメントやサインが、子供ながらに面白い読み物だった。そんな記憶があって、結婚をして自分の家ができたら、ゲストブックを置きたい、と長年の夢であった。

我が家のゲストブックは、友人の製本家に作っていただいたもの。不思議なご縁で、ちょうど私たちが結婚する頃に仲良くなり、「結婚式の芳名帳代わりに…」とプレゼントしていただき、私たちの門出をお祝いしにきてくださった方々の記録から、このゲストブックは始まった。

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その1ページ目には、小さく、
“Beati qui ad cena Agni vogati sunt”(小羊の食卓に招かれている者は幸い。)
とラテン語が印字されていて、彼女の粋な計らいである。
 

人を家にお招きするのは、
とりたてて得意というわけではない。ですが、
我が家の食卓に集まった方々の記録が綴り重ねられて、
本として完成したとき、その題名が
“Beati qui ad cena Agni vogati sunt”
になると想像すると、これから
沢山の方をお招きしたいと思うのである。

◯今日のゲストブック・・・製本家樋口久瑛作
◎“CAHIERS”製本家樋口久瑛展 @ AT THE CORNER ~12月30日(日)まで。
https://arts-science.com/pickup/pr-hhiguchi181214/

写真:白石和弘