独自の道を行く芸風のバカリズムさんは今、ドラマ界でも売れっ子脚本家のひとりです。扱うジャンルはコメディ、ヒューマン、サスペンス、ファミリーと広げつつも、どの作品にも独自の視点がふんだんに盛り込まれています。その表現方法の真骨頂は「心の声を台詞に投影する」登場人物のメタ的発言にあります。

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初の連続ドラマ脚本作品『素敵な選TAXI』

公式上は『ウレロ☆未確認少女』第8話(テレビ東京/2011年)が初めて手掛けたドラマ脚本です。連続ドラマ脚本としては『素敵な選TAXI』(カンテレ/2014年10月期)が初。その後も着々と自ら出演しながら脚本作を増やし、原作、脚本、主演の『架空OL日記』(読売テレビ/2017年4月期)では第36回向田邦子賞を受賞しました。このドラマでは何も事件は起こりません。でも「女子更衣室のストーブが壊れた」ことから始まる銀行員OLたちの会話劇、そして心の声の台詞から女子の実態あるあるを存分に楽しむことができます。バカリズムさんの腕にかかることによって、ドラマにならないようなシーンもまんまと成立させてしまいます。

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バカリズム原作・脚本・主演の『架空OL日記』

日本テレビが開局65周年プロジェクトを冠に試みた朝ドラマ『生田家の朝』(2018年12月10日~26日放送)でも脚本力を発揮していました。バカリズム脚本×福山雅治プロデュース作品として、記憶に新しいドラマです。「ゴハンかパンか」「うっかり寝過ごす」といった小さくも、家族にとっては大きくもなる朝の問題をこれまたバカリズムさん手法で切り取っていました。ギャラクシー賞テレビ部門12月度月間賞を受賞し、こんな講評を受けています。

 

「一戸建てに住むサラリーマンの夫と専業主婦の妻、中1の娘と小1の息子が、フローリングのリビングでテーブルではなくこたつで食べる朝ごはんの時間が中心。国家的に“平均”とされる家族構成、毎朝ゆっくりご飯を食べる風景はあらまほしき幻想のよう。私的小事に落ちをつけるバカリズムの脚本はさすがにうまい」。

“さすがにうまい”の言葉は、バカリズムさんの脚本家としての確固たる地位を築いていることを表しているようです。
 

竹内結子、水川あさみ、斉藤由貴のキャラクター監修も秀逸

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キャラクター監修を担当した『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』。本人も出演。

そして、現在放送中の1月クール連続ドラマ『スキャンダル弁護士 QUEEN』ではバカリズムさんがキャラクター監修を務めています。法廷シーンのない異色リーガルドラマとして押し出し、Perfumeのミュージックビデオを手がける映像クリエイター関和亮監督が連続ドラマ演出作品であることなど話題性は十分。期待も大きかった分、骨格となるスキャンダル事件と対峙するストーリーの凡庸さが目立ちがち。厳しい序盤戦を切っていますが、主演の竹内結子と脇を固める水川あさみ、斉藤由貴が演じる法律事務所の女3人衆のキャラクター性はバカリズムさんの手腕が活きています。

主役のキャラクターがわかりやすく描かれることは、ドラマの人気度に繋がる条件のひとつにあります。バカリズム作品の場合はそれが主役のキャラクターに限りません。登場人物ひとりひとりのキャラクター性を台詞から引き出すことにかけて秀逸。それゆえに3人が集まる時の会話劇はこのドラマ最大の見どころと言えるでしょう。

特に女性のキャラクター像は先の『架空OL日記』や『黒い十人の女』(読売テレビ/2016年10月期)を代表例に実証されています。たとえハイソ感が漂うドラマであっても、テレビにはリアリティが求められるものです。独身のアラフォー女はお金に余裕があって肉食系といった既成概念で単一的に描かれるだけのキャラクター像では物足りません。女が10人いれば、10人通りのアラサー、アラフォー女がいます。そんなちょっとした不満を見透かしているのでしょうか。しっかり反映してくれています。バカリズムのキャラクター作りの手腕にドラマの明暗が託されていることは明白でしょう。

<ドラマ紹介>
『スキャンダル弁護士 QUEEN』

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フジテレビ系列にて毎週木曜よる10時放送。
脚本:倉光泰子、三浦駿斗
出演:竹内結子、水川あさみ、中川大志、泉里香、バカリズム、斉藤由貴 ほか

 

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 
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映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

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文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

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ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

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メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

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ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

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ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

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ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

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ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。