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映画『がんになる前に知っておくこと』より

「2人に1人ががんになる時代」

がんを語る上で枕詞のようになっている言葉ですが、私は35歳でがんになるまで、一度もこの病気のことを真剣に考えたことがありませんでした。しかしそんな自分が3ヶ月前のある日、2人のうちの1人になったことを医師から告げられたのです。

 

その時の気持ちをなにに例えたら近いか考えてみたら、「見ず知らずの人から思いっきり横っ面を叩かれた時の気持ち」が一番しっくりきました。なので、瞬間的にものすごくカッとなったことを覚えています。
その一方で、ショック過ぎる出来事に直面した時の自己防衛反応か、がんを他人事のように捉える冷静な自分もいました。プラス、そばにいた夫がその場で激昂&号泣したおかげで、あまり取り乱さずにすんだのかもしれません。

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映画『がんになる前に知っておくこと』より

そうして突如自分の世界にやってきたがんですが、実は私のがんは10年以上かけて徐々に大きくなっていった“年代もの”であることも発覚。TAICOCLUB(音楽フェス)でテントを張っていた25歳の時も、子どもを身ごもった34歳の時も、知らぬ間にがんと共に人生を歩んでいたとは……。妙な気持ちでしげしげとアルバムを眺めつつ、なにも知らずのほほんと生きていた頃には二度と戻れないんだと、切なくなりました。私の人生は、「がん発覚前/後」ではっきりとスラッシュが引かれてしまったのです。

かといって、横っ面をひっぱたかれたようながん告知後も、閉経するかもしれない抗がん剤を打った後も、鏡の前にいる自分は昨日と同じ自分で、いきなり死相が出るわけでも、がんフラグが立つわけでもありません。ステージ3と聞いたからといって放浪の旅に出たくなるわけでもなく、博愛主義になることもありませんでした。

がんになっても人生は続くし、私は私である。

当たり前のことですが、がんになって唯一、私が悟ったことでした。

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映画『がんになる前に知っておくこと』より

そんなことに気づいた頃、ドキュメンタリー映画『がんになる前に知っておくこと』を知りました。
医療関係者やがんサバイバー15人との対話から、がんにまつわる基礎知識を詳らかにしていく本作は、正直、当事者になってがんのことを調べまくっていた自分にとって目新しい情報は多くなかったですが、そういった意味でもタイトルに偽りなしの、非常に丁寧&真摯な“がん初歩ガイド”でした。
そもそも2人に1人ががんになるならば、生理の仕組みと同じくらい、誰もががんについて知っておいた方がいいはず。私自身、「大腸がんになりまして」とカミングアウトした時、とある方から「人工肛門は?」と間髪入れずに質問されたことがありました。その問は大腸がんのことを知っている人ならではのものだったので、「こいつ……できる(話せる)!」と、非常に嬉しかったのを覚えています。
なので『がんになる前に知っておくこと』は、義務教育過程で観ておいた方がいい気がしたのでありました。

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映画『がんになる前に知っておくこと』より

そしてがんに限らず、妊娠している人、骨折中の人、セックスレスの人、子供が反抗期中の人などなど、世の中にはいろーんな問題や身体の変化と向き合っている人がいます。その痛みや困難を経験できないとしても、想像することはできるはず。本作がその一助になってくれることを願いつつ、2人に1人ががんになる時代が、「がんになるにはいい時代」となるよう、自分も発信していきたいです。

<映画紹介>
『がんになる前に知っておくこと』

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がんで義妹を亡くしたプロデューサーが、がんを一から学ぶべく制作したドキュメンタリー。腫瘍内科やがんサバイバーなど、15人の関係者から正しい情報の仕入れ方、がんとの共存の方法などを学ぶ。

監督・撮影・編集:三宅流  企画・プロデューサー:上原拓治 
整音:吉方淳二  ピアノ演奏:鳴神綾香
製作・配給:株式会社上原商店  制作:究竟フィルム  
配給協力・宣伝:リガード 宣伝美術:成瀬慧
©️2018 uehara-shouten

 

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 
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映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

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文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

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ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

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メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

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ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

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ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

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ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

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ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。