人の家へ行くと、本棚をこっそりのぞくのが好きだ。

本棚を見ると、その人がどんなことに興味があって、どんな思考なのかがなんとなく解る。反対に、時々、我が家に人が訪ねてきたとき、本棚をまじまじと見られると、自分の心の内を覗き込まれているようでちょっと恥ずかしい。

実は、今の家に引越しをして、最後まで頭を悩ませたのは、本棚だった。

”ビジュアル系”の私は、大きくて分厚い画集のようなものから、薄っぺらいメモのようなものまで、見た目で購入した本ばかりなので、形も大きさも不揃い。個性の強い本たちを収納する本棚を見つけるのは至難の技で、引っ越してから1年くらいはずっと、本が壁に沿って床に山積みになっていた。

壁一面の本棚にも憧れがあったが、いわゆる格子状の本棚というのは、ちょっと違う。本棚の枠の木の厚みがどうにも気になる。また、枠の大きさは決まっているから、私のような”半端者”の本が、綺麗に収まらないのも気に入らない。

壁に棚板を打ち付けるタイプのものもあるが、我が家は賃貸のため、壁に穴を開けるのはNG。
エレクターも丈夫でいいけれど、事務所でもあるまいし、もう少し色気の欲しいところ。

そんなわけで、一年近く放置していたのだが、時々、下の方の本が読みたくなったりすると引っ張り出すのが大変。やっぱり本は縦に収納すべきだな、といよいよ本棚について本気で考えることになった。

そもそも本棚ってなんなのかしら?それが解ったら、どんな本棚が有効か見えてくるかもしれない、と本棚の歴史についての本を読んでみた。

本はもともと大変貴重なもの。然るべき有識者しか閲覧することができず、鍵付きの木箱に収められていたそう。そんなくだりを読んでいたら、「なるほど、棚である必要はないのかも!」と思いつき、家に転がっている茶箱やらワイン箱やら、ベルギーから船便でやってきた木箱やらをかき集めて、それだけでは足りないから、無印のスチール製のキューブと組み合わせてみたら、なんともおもしろい本棚ができた。

 

学生時代、あるデザイン事務所でバイトを始めた頃、「本棚の整理をしておいて!」と言われたことがあった。その事務所のボス曰く、本棚の整理をさせると、その人のセンスがわかるそうで、確かに、度々申しつけられた本棚の整理作業は、どういう並びで、どういう風に棚を埋めていくと気持ちがいいのか、ということを考える良い訓練となった。

我が家の本棚も、新しい本が増えていく度に、少し入れ替えをしたり、気分によって表紙の綺麗なものを立てかけてみたり…。そうすると、頭の整理をしたようで気持ちがよい。

 

 

本棚を前にすると、不思議と口を噤み、心が落ち着くのは、自分の思考回路を客観的に見つめることができるからなのではないか、と最近感じている。

 
 

◯今日の道具・・・ドイツ製のブラシ。時々、気が向いたときに、本棚のほこりを払う。本を開かなくてもちょっと読んだ気分になる。