『たちあがる女』 ©2018-Slot Machine-Gulldrengurinn-Solar Media Entertainment-Ukrainian State Film Agency-Köggull Filmworks-Vintage Pictures

年度末でバタバタとするこの時期、女たちの“革命”を描いた映画からパワーをもらってみるのはいかがでしょうか!? 今回はタイプの違う勇敢なヒロインの生き方を描いた3本を紹介したいと思います。

アイスランドの自然と勇敢なヒロインの相性が抜群


まずはアイスランドから届いた『たちあがる女』。セミプロ合唱団の講師、ハットラの裏の顔は地元のアルミニウム工場に対して密かに戦いを挑んでいる環境保護活動家、“山女”。日々、活動に勤しむ彼女のもとに、かねてからの願いだった養子申請が受理されたという知らせが届きます。ハットラは工場との“最終決戦”を始めますが……。
この活動というのが工場の前で抗議をするといった類のものではなく、荒野に凛々しく立つ彼女が弓矢を放って送電線をショートさせるという、過激かつ物騒なもの! ヘリコプターからの監視を逃れて大自然の中を駆け抜ける場面では、死んだ羊の皮をかぶって追っ手の目をくらます『レヴェナント』ばりの描写もあります。社会派なメッセージを骨太のアクション映画のように描きつつ、とぼけたユーモアが顔を出す独創性にあふれた1本。ハットラの心の音色を奏でるように、時にはエールを送るかのように出し抜けに彼女の周りに楽団や合唱団が現れて、シュールな音楽を奏でる場面も。アイスランドの荒々しくて雄大な景色を捉えたダイナミックな映像と“女闘士”の相性は抜群! その手があったか、のラストまで驚きに満ちた作品です。

 

小さな町の書店をめぐるささやかなレボリューション


『マイ・ブックショップ』は『死ぬまでにしたい10のこと』のイザベル・コイシェ監督が英国ブッカー賞受賞作家、ペネロピ・フィッツジェラルドの原作を映画化した作品。1959年、イギリスの海辺の町に、亡き夫との夢だった書店を開いたフローレンスの物語です。ボロ家だった建物を買い取って書店の準備を進めていると、そこに立ちはだかるのが町の女王、ガマート夫人。この場所を芸術センターとして使いたいと、あの手この手の妨害を始めます。映画は保守的で意地悪な人たちのカタログのような様相を呈してきますが、フローレンスに寄り添ってくれる老紳士がひとり。人嫌いでずっと引きこもっていた彼と『華氏451度』や『ロリータ』を通して心を通わせていくようになるのです。
ひとりの女性が小さな町で起こしたささやかなレボリューションは、どんどん窮地に追い込まれます。劇中に登場する小説が伏線になっているエンディングは苦味があるものだけれど、勇敢なチャレンジが次の世代へと手渡されたと信じさせてくれる、新たな船出のように感じました。エミリー・モーティマーとビル・ナイの慎ましく知的な美しさ。書店を手伝うおしゃまな少女、フローレンスの心模様を映し出しているかのようなファッション。そして何よりも本の手触りやページを開いた瞬間の匂いや高揚感が伝わってくるような映像が、素晴らしい読書体験をしたときとよく似た贅沢な時間を約束してくれます。

『マイ・ブックショップ』© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.


今最も注目される「パワーウーマン」の映画


1993年に女性最高判事に任命されて以来、85才の今も現役で活躍するルース・ギンズバーグ。1970年代を舞台に彼女のターニングポイントとなった裁判を描き出す作品が『ビリーブ 未来への大逆転』です。ハーバード法科大学院に入学したルースは、「女子学生は男子の席を奪ってまで入学した理由を話してくれ」と学部長に聞かれ、いきなり女性差別の洗礼を浴びることに。大学を首席で卒業したものの、女性、母親、ユダヤ系であることから弁護士事務所に就職先を見つけられず、彼女は大学教授として働き始めます。そんな暮らしのなかで、弁護士の夫のマーティンが持ち込んだのは男女平等を訴える出発点になるかもしれない案件。ふたりは勝ち目がないと言われた裁判に挑むのです。
弱者の声に耳を傾け毅然としたルースの戦い方はもちろんのこと、あの時代に当たり前のように家事も育児もともにこなすマーティンとのパートナーシップは、本当に理想的! “女は女らしく”のみならず“男は男らしく”という呪縛への疑問が描かれているところが、とてもフェアな作品です。5月にはアメリカでヒットを記録したルース本人のドキュメンタリー『RBG 最強の85才』も公開に。今、最も注目されているパワーウーマンです。

『ビリーブ 未来への大逆転』© 2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

<作品紹介>
『たちあがる女』

 

監督・脚本:ベネディクト・エルリングソン
出演:ハルドラ・ゲイルハルズドッティル、ヨハン・シグルズアルソン、ヨルンドゥル・ラグナルソン、マルガリータ・ヒルスカ
YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
©2018-Slot Machine-Gulldrengurinn-Solar Media Entertainment-Ukrainian State Film Agency-Köggull Filmworks-Vintage Pictures


『マイ・ブックショップ』

 

シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
監督&脚本:イザベル・コイシェ 
出演:エミリー・モーティマー、ビル・ナイ、パトリシア・クラークソン
© 2017 Green Films AIE, Diagonal Televisió SLU, A Contracorriente Films SL, Zephyr Films The Bookshop Ltd.


『ビリーブ 未来への大逆転』

 

3月22日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督:ミミ・レダー
出演:フェリシティ・ジョーンズ、アーミー・ハマー、ジャスティン・セロー、キャシー・ベイツ、サム・ウォーターストン
© 2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

 

 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

構成/榎本明日香、片岡千晶(編集部)

 

著者一覧
 

映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。人生で最も強く影響を受けた作品は、テレビドラマ『未成年』。

メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。

ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『僕らは奇跡でできている』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。