「大手企業で労務関係をしっかり経験してきた人にやってほしいと言われて。これまでの経験から整っていない環境でやるほうがむしろ自分はやる気が出ると感じていたので(笑)、若い方中心の職場に飛び込むのは勇気がいりましたが、チャレンジしました」

 

その後、もう1社を経て、現勤務先である財団法人へ転職されたのが今年1月のこと。これもWarisからの紹介でした。今回の財団法人もまさに立ち上げ期でゼロからの挑戦。

「Warisのコンサルタントさんに“これまでの人事経験を活かしつつゼロからモノを生み出す、今のフェーズがあなたにぴったり!“と言われたことが応募のきっかけ。その言葉に背中を押してもらえました」

50歳でまた新たな環境に飛び込むことに不安はなかったのでしょうか? 同世代で転職を考えている人なら誰もが抱くであろう疑問に対し、「人生において無駄なことって何一つないと思うんです」と話す稲垣さん。それはこれまで重ねてきた数々の経験があってからこそ感じることだと言います。

 

「40代で経験した非営利組織での仕事はたしかに年収は大幅にダウンしたけれど、立ち上げ期の団体でゼロからしくみをつくるかけがえのない経験をさせてもらいました。逆に、報酬を補うために始めた会計事務所でのアルバイトは家から徒歩5分の距離という条件だけで選んでしまったのですが、仕事は全然魅力を感じなくて(笑)。やはりそういう環境だと働くモチベーションが続かないんだな、理念への共感が大事だな、という気づきがありました。

直近で仕事をしたベンチャー企業では20代・30代中心の若いメンバーに囲まれてIPO後の刺激的な環境で経験を積むことができた。一方で、ベンチャーならではの激務でワークライフバランスも大切だという気づきもありました。これまで経験してきた組織の上司・同僚とはたいてい今でもつながりがあって、たまに食事に行ったりもしているんですよ。こうした人とのつながりは自分にとって何より得難い財産になっています」

現在の職場は代表との面接の段階で「こういう組織をつくりたい」というビジョンの話で大いに盛り上がったと言います。

「面接というよりディスカッションのような感じでしたね。でもそうやって未来の話をできたのがすごく楽しかったし、目の前が開けていくようでした。社会課題の解決を目指している財団法人なので、普通の職場では話題に出ることも少ない高齢者の介護や子どもの貧困の話を、同僚たちと真剣に議論できるのが何より楽しいですね。同僚というより同志みたいな感じです」。

今後のキャリアプランについては「少し落ち着いたら副業などのパラレルキャリアに挑戦したい」と話す稲垣さん。

「70歳でも生き生き働くのが理想なんです。今は正社員で働いていますが、雇われているといろんな意味で守られていますよね。でも副業やフリーランスってその都度、仕事の成果でシビアに評価されて、クライアントとの間に適度な緊張感がある。そういう部分も自分の中に持っていたほうがアンテナを高くはることになるし、知識やスキルが磨かれると思うんです」。

アラフォー世代の中には、転職を繰り返すことに対して「印象が悪くなるのでは?」といったネガティブな印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、さまざまなアンケートデータを参照すると日本人の平均の転職回数は2、3回程度で、複数の会社を経験することは決して珍しいことではありません。稲垣さんの場合は、50歳にして6回目の転職ということで、一般的な状況と比べれば「やや多め」ではあります。ただそのときどきの転職によって実現したいことがはっきりされていること、会社の規模感やステージは異なるものの、人事という専門領域が一貫していることがプラスに作用しています。

年齢を重ねても守りに入るどころか、新しい環境へ飛び込む冒険心まで発揮している稲垣さん。現在、正社員という安定的な立場で仕事をされているにもかかわらず、副業によってスキルをさらに磨きたいという発言に稲垣さんのプロ意識の高さが表れていると感じました。現状に甘んじず、挑戦する姿勢を持ってアクションすることで、道が拓けてきているんですね。

 

前回記事「#KuToo運動から考える、キャリアとファッションの浅からぬ関係」はこちら>>

 
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