『流行通信』から『VOGUEJAPAN』『Harper’s BAZAAR』『FIGARO japon』『SPUR』などモード誌の編集を35年にわたって手がけてきたエディターの平工京子さんが、ラグジュアリーブランドからファストファッションまで、ファッション業界の社会貢献とサステイナブルな取り組みについて紹介します。

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画像提供:H&M

H&Mはファッション企業としての社会的責任を早くから自覚し、積極的な取り組みを積み重ねているブランド。そもそも“サステナビリティ”という言葉を私が初めて目にしたのは10年ほど前。H&Mのプレスリリースを読んでいた時のことでした。現在、公式ホームページでは「ファッションとクオリティを最良の価格でサステイナブルに程供する」というキャッチコピーのもと、オンラインショッピングのほとんどの商品について、使用されている素材や生産工場の名称と住所など、サステナビリティ情報が可能な限り開示されています。

 

衣類回収プログラム(古着回収サービス)への取り組みは2013年にグローバルな展開でスタート。現在、日本国内の約100店舗のすべてで古着回収サービスを実施しています。しかも、衣料品やホームテキスタイルであればH&M以外のどんなブランドのものでも回収OK。袋に入れて持ち込むのがルールで、1袋につき500円の割引クーポンがもらえるシステムです。

 


「古着回収サービスを実施しているアパレル企業は増えていますが、じつは回収した後が重要。H&Mは世界60ヶ国40社以上の企業に古着の回収サービスを提供しているI:CO(アイコレクト社)とパートナーシップを結んでいます。」(H&M ジャパン/CSR担当、山浦さん)

画像提供:H&M

回収品がその後、どのような経過をたどるかも明確です。H&MからI:COの世界数カ所にある仕分け専用工場に輸送された古着は300以上の基準に従って、以下の4つのカテゴリーに分類されます。

【リウェア】
全回収品の60%以上を占める「まだ着用できる衣料品」。これは、主に古着として再販売されます。

【リユース】
もう着ることのできなくなった衣料品のうち、リメイクコレクションに使用されたり、清掃用品などに作り変えられて再利用されるもの。全体の30%を占めます。

【リサイクル】
リウェア、リユースに適さない衣料品・生地は、新たな繊維や素材へとリサイクル処理されたり、自動車業界などで制振材や絶縁材などに利用されます。

【リウェア】【リユース】【リサイクル】
以上のいずれにも安全衛生上、適さない布地は、エネルギーの燃料に利用されます。

現状では技術的な限界により、どのような経路をたどっても最終的にはCO2を排出することになるのですが、「できるだけ長く使うことが、環境への負担を減らす最良の方法です。」(H&M ジャパン/山浦さん)

一方、「全商品リサイクル活動」という独自の古着回収サービスで、世界の難民キャンプや被災地を支援しているのがユニクロやジーユーを展開するファーストリテイリングです。2006年にスタートしたこのプログラムを通じて、2011年にUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)とパートナーシップを締結。UNHCRやNGOと連携し、これまでに72の国と地域に約3,657万点の衣類を提供してきました。

画像提供:ユニクロ

回収の対象となる衣類は、ユニクロ・ジーユーで販売された全商品。全国のユニクロ・ジーユー店舗に設置されたリサイクルBOXに回収品を入れるシステム。できるだけ良い状態で届けるために、洗濯したものを持ち込むのがルールです。回収品の約8割はまだ着られる状態。支援に適さない服は、廃棄物固形燃料(RPF)としてリサイクルされています。

画像提供:ユニクロ

世界中に服を必要としている人は私たちが想像しているよりもずっとたくさんいて、ファーストリテイリングの機能的な服が命をつなぐ1着になることも。

活動を次の世代につなぐために、全国のユニクロ、ジーユーのスタッフが全国の学校に出向き、服と難民問題をテーマにした出張授業をしているのも社会貢献の取り組みのひとつ。2013年から始まったこの「届けよう、服のチカラプロジェクト」は、授業を受けた子どもたちが集めた服を、UNHCRを通じて難民キャンプの子どもたちに届け、寄贈の様子を参加した学校にフォトレポートとして報告するというもの。年々参加校が増え、2018年度は全国47都道府県から388校・約40000人が参加して、約63万着の子ども服が回収されました。

画像提供:ユニクロ

さらにこの秋からはユニクロで、これまでに販売されたすべてのダウン商品(MEN/WOMEN)を対象に、「ダウンリサイクル」がスタート。回収されたダウンは東レが新しく開発した技術で取り出され、きれいに洗浄された後、2020年秋冬よりユニクロのダウン製品の一部として再利用されることになっています。1月9日までは、ダウン1点につき1000円の割引券がもらえる特典も。ダウン商品の回収自体はその後も期間を限定せず、継続されます。

「難民支援などリユースを目的とした全商品リサイクル活動は、ユニクロおよびジーユーが展開する22カ国・地域で回収を行っています。ダウンリサイクルについては、この9月からはじめたところですので、当面はこれまでの累積販売量が多い日本だけの回収。今後は海外への拡大を検討していきます。」(ファーストリテイリング/コーポレート広報部)

H&M、ファーストリテイリングともに大量の衣料品をグローバルな規模で展開する企業。気になる過剰生産と廃棄の問題については、

「昨年度には社内にAI部門が設立され、需要と生産のバランスがより鋭敏になってきています。また二次流通、レンタルなどの新たなサービスも一部の市場で開始。古着回収と合わせて循環型へとさらに加速しているところです」(H&M/山浦さん)

「季節の終わりにセールで価格を下げても“売り切る”方針なので、売れ残り商品の廃棄はしていません」(ファーストリテイリング/コーポレート広報部)


私たちにできるのは、服を買ったらできるだけ長く着る。不要になったら、再利用に回すこと。そして、新しい時代のモラルに基づいて、掛け声やポーズではなく、信頼できる取り組みをしている企業を見極めることが、とても大切だと思います。

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