モデルとして活躍しながら、ライフワークとして瞑想を広める活動をしているSHIHOさん。もともと20代から始めたヨガを通して、自分自身の心を鎮めるために瞑想を行ってきた彼女が、瞑想を多くの人に知ってもらいたいと思ったきっかけが比叡山延暦寺の教えに出合ったこと。それが縁となり、比叡山での修行体験を通して『五感瞑想』が生まれ、延暦寺で瞑想イベントを行ったことも。そこで今回はSHIHOさんとご縁の深い比叡山延暦寺のご住職・今出川行戒さんとオンライン対談。『SHIHOメディテーション』のルーツである1200年の歴史を持つ延暦寺の教えと、お二人の考える瞑想についてお話を伺いました。

【延暦寺住職 今出川行戒さん×SHIHO】いま、瞑想が私たちにくれるもの_img0
以前、比叡山を訪れたときにも、今出川住職に比叡山の歴史や最澄さんの教えなど色々と伺ったそう。

欲はあって当たり前。そこに執着することが煩悩。それを手放すツールが瞑想。


SHIHO(敬称略):今出川さんとはじめてお会いしたのは、2年前の大みそかに宿坊に宿泊して、除夜の鐘をつかせて頂いたときですよね。ついたのがちょうど108回目の除夜の鐘で驚いて! とても感動的な体験でした。

今出川(敬称略):1番目から108番目までの整理券があって、SHIHOさんに渡したのがたまたま108番目だったんです。すごい偶然ですね。それが最初の出会いでした。

SHIHO:本当に! 素晴らしい年の始まりになりました(笑)。除夜の鐘は、鐘を鳴らすことで108の煩悩を浄化して新しい年を迎えるものですよね。その時の体験がとても印象的でした。これって瞑想で呼吸をくり返して、自分が浄化していく感じに似ているなと思ったんです。そこからインスピレーションを受けて、いまちょうど除夜の鐘のように音と呼吸に合わせて心をリリースしていく『108瞑想』を考えています。

今出川:108というのは煩悩の数といわれています。SHIHOさんの瞑想は、煩悩とか心にあるものをリリースして身軽になっていく瞑想ですか?

SHIHO:そうです!

今出川:瞑想にはいろいろな形がありますが、SHIHOさんの考えておられている瞑想法は比叡山の教えに似ていますね。

SHIHO:瞑想法を考える中で、日本の精神性を感じられるようなものを作っていきたい、と思っているのですが、108の煩悩も日本ならではのものですよね?

今出川:そうですね。108というのはひとつの数字であって、たくさんという意味なんですね。人間にはいろいろな種類の煩悩があって、その中で『貪・瞋・癡(とん・じん・ち)』という三大煩悩があります。『貪』というのはむさぼる欲。あれもこれもと欲張る欲です。『瞋』は、怒りや怒るといった激しい感情。『痴』というのは、人をねたんだり、恨んだりする感情です。それが代表的な3つの煩悩だと言われています。

SHIHO:煩悩に3つの種類があるんですね! 知りませんでした。でも、この3つの煩悩は、誰でも自分の中に当てはまるものが必ずありますよね。

今出川:そうですね。例えば、欲といってもいいものも、悪いものもあります。ましてや人間に欲がなかったら人間でなくなってしまいますから。怒りも、人への恨みやねたみも、それぞれが人間の感情のひとつです。ですから、それらの感情を持つことが、いけないわけではありません。よくないのは、そこに執着すること。執着しすぎることが煩悩なんです。

SHIHO:その執着は瞑想でリリースすることができます。

今出川:比叡山では瞑想のことを『止観』と言います。これは自分の心を止めて観る。そういう精神状態をつくることを表しています。例えば、湖に風があるとザワザワと波が立ちますよね。風がなければ水面は鏡のように、何もかもをキレイに映し出してくれます。夜空にお月様が出てくれば、鏡のように湖にお月様が映り込む。心を止めて、止めた中で自分テーマを観察して心の湖にそれを映し出していく、そういう精神状態を作ることが止観です。

SHIHO:なるほど。執着から離れて、いったん距離を置くと、煩悩と言われる感情とも上手に付き合えて、どう対処すべきかがクリアになってきます。そのひとつの方法が瞑想だと思うんです。

今出川:座禅や瞑想といっても宗派によっていろいろなやり方がありますが、SHIHOさんと比叡山の考えは近しいですね。人間、それぞれが持つテーマがあり、そのテーマに向かってどうすればより良き道に向かうことができるのか、それに思いをはせるのが比叡山における『座禅止観』です。

 

煩悩はなくならない、with煩悩な自分を受け入れることが大事

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SHIHO:今、コロナで多くのみなさんが心に多くの不安を抱えていますよね。不安からネガティブな感情があふれてきてしまうことも。そういう時代だからこそ、瞑想ってすごく必要だと思うんです。

今出川:煩悩はなくなることはありません。最近、withコロナという新しい生活様式がいわれていますけど、with煩悩なんですよ(笑)。

SHIHO:すごく共感です!

今出川:煩悩は絶対になくなることはないので、いかにうまく付き合っていくかが大事なんです。煩悩が完全になくなってしまったら、仏様になってしまいますから。

SHIHO:煩悩を絶対になくさなきゃいけないと思うとハードルが高いけど、with煩悩と言われると気持ちがラクになりますね。

今出川:「欲」も言葉を変えれば、「向上心」といわれるものになります。欲を良い方に使えば、自分をより高めることができます。「足ることを知る」こともwith煩悩のひとつです。

SHIHO:それに瞑想をするとwith煩悩だけではなくて、with仏も感じられる気がします。比叡山の修行体験で『自分自身の中にある仏に目覚めましょう』というお言葉にとても感銘を受けました。煩悩を手放そうとしすぎて迷ったときに、心の中に仏があると思うようにすると、自分を信じられる気がします。

今出川:SHIHOさんのおっしゃること、よくわかります。「自分の中に仏がある」という比叡山の教えは、みんな誰でも仏になれることに気づくことが大事だと説いています。そして、私たちの心の中にいらっしゃる仏さまに水をやり、肥やしをやり、育てていく。その水や肥やしが比叡山の止観であり、SHIHOさんの瞑想なんですね。

SHIHO:まさにその通りです。瞑想は心の中に仏があることを感じ、自分のテーマを見つけていくツールだと思います。

今出川:仏が心の中にいることに気づけず、自分自身が何をすればいいのか、自分のテーマに気づけずに迷っている方が多くいらっしゃいます。

SHIHO:私自身も頭だけで考えていたときは、何をすればいいのかよくわからなかったんです。でも瞑想を始めて、自分の考えや感情、煩悩から距離をおいた無意識の中に、その答えを見つけられた気がするんです。それから瞑想にハマってしまいました。

今出川:SHIHOさんのように、これからは多くの方々が本来するべきことを見つけるために、瞑想や止観を活用してもらえるといいですね。比叡山も新しい時代のみなさんの安寧のために何ができるかを考えて、新たな試みもいろいろ考えています。

SHIHO:新しい試み! とても楽しみにしています。

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今出川行戒さん
比叡山延暦寺 副執行、参拝部長。延暦寺1200年の伝統を守りつつ、若い世代にもその教えを知ってもらうために「ゲゲゲの鬼太郎」とコラボをした展覧会を開催するなど、斬新なアイディアで延暦寺の教えを広める活動をしている。

撮影/Matt Sclarandis
スタイリスト/長澤実香
ヘアメイク/レイナ
モデル/SHIHO
協力/滋賀県
取材・文/山本美和
構成/川良咲子




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