平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。


前編のあらすじ 国見玲子は小学生ふたりをそだてる母。夫が3年前に単身赴任になり、ワンオペに四苦八苦。とくに夏休みは、自分の子ども時代と比べて、娘の加奈と翔太に申し訳ない気持ちを抱いている。そんなある日、長女の加奈が、習い事を無断で休んだことがわかり……?

前編はこちら働く母が悩む、小学生の夏休み問題…独りで留守番の長女に異変が!?焦る母がとっさに考えたのは…>>
 

第81話 ワーキングマザー【中編】

「私知ってるの。お父さんはもう…」娘が気づいた戦慄の家族の秘密…母が3年間隠し続けた切ない理由_img0
 

「え? それじゃ加奈ちゃん、習い事をサボったってこと? そういうタイプじゃなかったよね?」

スイミング無断欠席の翌日。同僚の弘美さんの言葉に、私は力なく頷いた。仕事の合間、お弁当を広げているもののちっとも食欲がわかない。

「昨日、急いで家に帰ったら、加奈はリビングでぼーっとテレビを見ていて。どうしてスイミングに行かなかったの!? って訊いたら、行きたくなかったって。思わず叱っちゃったけど、なんだか様子がおかしくて……」

「どういう風に?」

自身も母である弘美さんは、心配そうに身を乗り出してくれる。私は昨夜から抱えるこのモヤモヤを誰にも相談できなかったこともあり、正直に話すことにした。

「もう疲れたから、学校も習い事も、英語にもスイミングにもキャンプにも行きたくないって。反抗してるっていうより、なんだか本当に……燃料が切れちゃったっていう様子で」

今朝の光景を思い出して、私は不覚にも半べそになった。

「何かスイミングで嫌なことがあったんじゃないかな? ほら、そのくらいの女の子だと仲間外れとか」

「私もそう思って、昨日はそっとしておいたの。でも今朝も起きてこなくて……30分くらい、いろいろ話しかけたけど様子は変わらなくて。会社に行かなくちゃならなくて、出てきちゃったけど……弘美さん、これって思春期だから? 反抗期? 急にあんなに頑張り屋だった子がこんなふうになるなんて、おかしいよね?」

弘美さんは、うーん、と腕組みをして考え込む。

「心配だね……何があったのかわからないけど、ママは味方だよって伝えてあげたら? ふっと疲れが出たのかも。ほら、私たち子どもが小さい頃からフルタイムで働いてるから、毎日少しずつ、負担かけてるところあるしね。コミュニケーション不足もあるかもしれないし」

耳が痛い。ぐっさり心に刺さった。「そうじゃない」と思いたくて、あれこれ言い訳を並べてきたけれど。

――今日はとにかく早く帰って、しっかり話そう。

私は弘美さんに御礼を言って、今日も昼休みを半分返上してデスクに駆け込んだ。