編集部 新刊で収録されたロングインタビューでは、ご自身のこれまでを振り返っています。なにか感慨のようなものはありましたか?

稲垣さん 芸能界でこんなにも長くやってけるなんて夢にも思わなかった、ということですかね。僕は、この世界にすごく憧れて「アイドルや俳優になりたい」という夢を描いていたわけでもなく、「何が何でもこの世界で!」という気持ちでこのポジションを勝ち取ったわけでもない、なのに15歳くらいの頃には芸能人になっちゃって「ここが自分の生きる道なのかな」くらいの感じだったので、ちょっと特殊だと思うんですね。
それでも今もこうやって第一線でやらせていただけているんだから、やっぱりファンの方やスタッフの皆さんには、改めて感謝しかありません。特に3年前にグループを解散してからは、草彅くん、香取くんと一緒にゼロからのスタートだったので——よくふたりとも話すんですが、再び自分たちがやりたいように仕事ができるなんて、想像できませんでしたから。

編集部 でもグループ解散以降の稲垣さんのお仕事って、それ以前とはちょっと異なっていて、面白いなと思いながら拝見していました。

稲垣さん それまでのことを否定するわけではありませんが、やっぱり何十年も同じグループで、同じような環境でやっていると、凝り固まってきちゃう部分があるんですよ。そういう意味では、新しい環境でゼロからスタートしたことで、「稲垣吾郎らしさ」はそのままに持ちながら、新たにチャレンジできたことは非常に多いです。
このフォトエッセイもそうですが、最近はラジオの生放送のパーソナリティを週に2回やらせて頂いているし、ABEMA TVの番組「ななにー」の中の——自分で言うのはちょっと恥ずかしいタイトルですが——「インテリゴロウ」というコーナーでは、映画監督や作家など、文化人の方と対談させてもらっています。

編集部 番組のMCやトークなどの仕事がふえていますよね。

稲垣さん 『ゴロウ・デラックス』くらいからそういうイメージを持って下さる方もいると思いますが、グループの頃は基本的にはそういうのはなかったと思うんですよね。おしゃべりが上手なメンバーが他にいっぱいいたし、僕はどちらかというとみんなにイジられる、得体のしれない存在みたいな。でももともと人と話すのは好きですし、自分で言うのもヘンですが、結構聞き上手なんですよ(笑)。20代の頃に対談させていただいた村上龍先生から「稲垣くん、話聞くの上手だね」って褒めていただいたことがあります。すごく嬉しかったですね。
まあグループ時代には、グループ内にそれぞれの役割みたいなものがあったから、そういう仕事はしてこなかったし、求められていないとも思っていました。アイドル歌手として歌って踊って、番組ではコントをやって、グループでいる時はグループ内の役割を演じて、個人では俳優をやって——という感じで、その中に「ひとりでトーク」なんてなかったんです。ひとりになったから、そういう部分にトライすることができるようになれたかなと。

編集部 NHKの「不可避研究所」なんてほんとにユニークな仕事で、おひとりになったからこそなのかなと思ったり。今後は、どういった種類の番組に、ということも考えていますか?

稲垣さん そこは自分の判断でというわけではないですね。やっぱり僕の年齢とかもあると思いますよ。もう「アイドルでーす」っていう年齢でもないじゃないですか(笑)。映画や小説、音楽など文化みたいなものを深堀りするような番組とか、それこそ社会的な問題を扱うNHKの番組に声をかけていただけるのは、やっぱり、そういう年齢になったってことなんだろうなと。そのあたりの知識を持たずにここまで来てしまったから、一緒に勉強しながらやっている感じです。でもこういう流れになれたことは非常にありがたいことだし、僕もそうした仕事をやっていきたいという思いがあったので、今はすごく楽しいです。

編集部 ちなみに最近の世の中で起こっていることで、興味のあることってありますか?

稲垣さん そうですねえ、やっぱり今はどうしてもコロナ禍のことになってしまいますよね。でもありがたいことに、こういう状況だからこそエンタテイメントを求める声も聞こえてきていて。コロナの中でのエンタテイメントの形、どういう風に届けていけばいいのかな、ってことは考えています。
映画は11月に無事公開予定ですが、ファンミーティングも延期、舞台も中止になってしまったんですが、先日、やらせてもらった朗読劇なんかは、ライブでもできるひとつの形かなと思ったり。応援してくれるみなさんを、楽しませたいし、元気づけたい。社会のことって言うより、自分のことになっちゃいましたね(笑)。

『Blume』

稲垣吾郎 宝島社

19年ぶりのフォトエッセイ。連載時の未公開カットを含むフォト&エッセイに加え、仕事と自身の価値観について語ったロングインタビューを収録! ふだん着でいながら、どこまでも洗練された趣味人的ライフスタイルは見ているだけで癒やしの読書タイムになりそう。稲垣さん自身の撮影による美しい花の写真も必見。



撮影/YUJI TAKEUCHI (BALLPARK)
取材・文/渥美志保
構成/藤本容子
 
 
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