ドラマ&タレント分析記事を各誌で手がけているライター山本奈緒子さんと、ドラマウォッチャーの編集者N。
長年にわたって芸能記事を企画し、当たるドラマ、ブレイクする俳優を嗅ぎ取る能力においても信頼度バツグンの2人に、ドラマの見どころや行く末について、皆様に披露してもらう短期集中連載です。
ライター山本奈緒子 タレントインタビューや流行事象の分析記事を専門としており、仕事柄、話題のドラマ、映画はほぼ全てチェック。女性誌「ViVi」でブレイク前の若手男子を発掘する「tokyo boy cam」を連載。爬虫類顔の男性が好みで、好きな芸能人は綾野剛、Kiss My Ft2の藤ヶ谷太輔など。
編集N 究極のテレビ愛好家でドラマウォッチャー。女性誌で長年、芸能記事を担当。イケメンのジャッジにおいては人一倍厳しく、雰囲気イケメンを許さない。好きな俳優は木村拓哉と妻夫木聡。
『赤毛のアン』とフェミニズム
山本 私がドはまり中のネットフリックスのオリジナルドラマ『アンという名の少女』。前回は、原作との比較と差別問題に終始してしまったので、今回は主人公のアンという女性について語り合いたいと思います。
編集N まわりの女性に聞くと、『赤毛のアン』はフェミニズムの代表格的な1冊なのですね。
山本 そうそう。アンを引き取ったマシューとマリラって、最初は男の子を希望していたのが、間違ってアンがやって来るわけじゃん? でも最後、マリラが「女の子で良かったわ」みたいなことを言うの。これが当時の日本社会と重なって見えて、すごく印象的だったのよね。
編集N どうゆうことですか?
山本 いや、私がアンを読んだ昭和の終わり頃から、息子より娘を欲する親が増えてきた印象があったから。世の中が平和になってくると、必要とされるのは男子の労働力より女子の友達力なんだなあ、と。そう思ったとき、そういえばマリラも「女の子で良かった」と言っていたな、と思ったの。
編集N なるほど。深いですね。
山本 でもこのドラマは、もっとストレートにアンに、「女性に対する偏見」に立ち向かわせてるよね。
編集N フェミニズム的なメッセージは正直なところ、私にはよく分からなかったのです。ただ、見ていてひたすらアンが良い意味でウザい、と思っていました。
山本 アン、ウザいよね! 池を見ても木を見てもいちいち名前をつけるし、すぐ妄想を始めてうっとりするし。この主役の子、上手すぎる!
編集N 私は、だからこそアンの底知れないエネルギーを感じて楽しかったのですが、あのウザさに負けて観なくなってしまった人もいる気がします。
山本 そういえば私、オンライン英会話のレッスンを受けているんだけど、アンってカナダを舞台にした作品だから、カナダ人女性のレッスンのとき、このドラマにハマっていると話したの。そしたらその先生、ひと言「ああ、あれはboring(退屈)だったわ」と言ったの! もうこの先生のレッスンは受けるもんか!とムカついたけど、アンをウザいと思ってしまったクチだったのかしら……。
編集N かもしれませんね(笑)。あと、アンの親友のダイアナがいいヤツすぎるのも気になりましたね。あんな良い家柄に育って、いきなり現れた孤児のアンに最初っから優しくてすぐ親友になってあげるって、どういうこと??と疑問しかなかった。
山本 たしかに、ちょっと親友になるくだりは端折られている感じがありましたね。でも、ダイアナは厳格な家庭で無意識に鬱屈していたものがあって、そこにアンという自分とは全く違う存在が現れ、何か閉ざされた自分の世界を開いてくれる気がしたんじゃないかしら。だからすぐに惹かれたんだと思う。
編集N なるほど、そういう説明的なシーンがあれば良かったのに。
アン役のエイミーベス・マクナルティ。インスタグラムより
アンは外見差別と戦った先駆け的存在
編集N それにしても主演の女の子は、こう言っては何ですが本当に”ブサイク”を演じきってますよね。あの子をキャスティングした演出家の勇気を感じます。
山本 まぁ、アンは原作でも、赤毛でそばかすだらけで痩せっぽっちで、あの時代に不器量とされる代表的な外見だった、というのが一つの特徴ですからね。だけどそれを上回る内面的魅力があるから皆が惹かれていく、そういう方向で外見差別との戦いを描いているのでしょうね。
編集N 実際、ドラマを見ていると魅力的に見えてくるんですよね。やっぱ主役!って感じだし。
山本 Nさんは『大草原の小さな家』は知ってる? アメリカ開拓時代のインガルス一家を描いたドラマ。
編集N 母親が大好きで、私も小学生のとき一緒に見ていました。伝説のドラマですよね。
山本 このドラマの主人公のローラは、個人的に赤毛のアンをモチーフにしているのでは?とずっと思っていたんだよね。美人じゃないコンプレックスを抱えているけど、すごいエネルギッシュで魅力的なところが。
編集N ははあ、なるほどね。でもあのドラマは、もっとアメリカンなフロンティア精神を描いていましたよね。むしろ私が『大草原の小さな家』で一番覚えているのは、汚いブーツのままベッドに入っていたこと……。
山本 それ、私も覚えてるかも! しかもブーツが、すっごいゴツくなかった?
編集N そうそう、牧場用のブーツだからか、ごっつい編み上げなんだよね。よくこんなブーツ履いたまま寝られるなあと、子供心にいつも思っていたのです。
山本 結局記憶に残っているのって、そういうどうでもいいディテールだったりするもんよね(苦笑)。
さて、どハマリしていたアンのドラマですが、シーズン3で終わってしまうらしいですね。何でもカナダとネットフリックスの共同製作で、そこが揉めたゆえの打ち切りだとか……。
編集N そうですよ、それで「やめないで!」って嘆願運動が起こって、100万以上の署名が集まったけど覆らなかったんでしょう?
山本 そうだったんだ! 悲しすぎる。あんなに大人に振り回されながらも必死で道を切り開いてきたのに、結局大人の事情に潰されるアン……。
編集N 皮肉なオチすぎるわ!
前回記事「【年末一気見ドラマ】脱・自己犠牲ストーリーが痛快!Netflix版『赤毛のアン』」はこちら>>
文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門1&2』(アルテスパブリッシング)など。
ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。twitter:@fudge_2002
メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。
ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。
ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。
ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。18年に大腸がん発見&共存中。
ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。
ライター 渥美 志保
TVドラマ脚本家を経てライターへ。女性誌、男性誌、週刊誌、カルチャー誌など一般誌、企業広報誌などで、映画を中心にカルチャー全般のインタビュー、ライティングを手がける。yahoo! オーサー、コスモポリタン日本版、withオンラインなど、ネット媒体の連載多数。食べること読むこと観ること、歴史と社会学、いろんなところで頑張る女性たちとイケメンの筋肉が好き。寄稿中の連載は、
「yahoo!ニュース」『アツミシホのイケメンシネマ』
「COSMOPOLITAN」日本版『女子の悶々』
「COSMOPOLITAN」日本版『悪姫が世界を手に入れる』
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ライター 山本奈緒子
1972年生まれ。6年間の会社員生活を経て、フリーライターに。『FRaU』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。
映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。