ドラマ&タレント分析記事を各誌で手がけているライター山本奈緒子さんと、ドラマウォッチャーの編集者N。
長年にわたって芸能記事を企画し、当たるドラマ、ブレイクする俳優を嗅ぎ取る能力においても信頼度バツグンの2人に、ドラマの見どころや行く末について、皆様に披露してもらう短期集中連載です。

【年末一気見ドラマ】脱・自己犠牲マインドのストーリーが痛快! 『アンという名の少女』_img0
『アンという名の少女』ネットフリックスで独占配信中!
【ナビゲーター】
ライター山本奈緒子 タレントインタビューや流行事象の分析記事を専門としており、仕事柄、話題のドラマ、映画はほぼ全てチェック。女性誌「vivi」でブレイク前の若手男子を発掘する「tokyo boy cam」を連載。爬虫類顔の男性が好みで、好きな芸能人は綾野剛、Kiss My Ft2の藤ヶ谷太輔など。

編集N 究極のテレビ愛好家でドラマウォッチャー。女性誌で長年、芸能記事を担当。イケメンのジャッジにおいては人一倍厳しく、雰囲気イケメンを許さない。好きな俳優は木村拓哉と妻夫木聡。
 


あの『赤毛のアン』を現代フェミ視点で捉えて描いてくるとは!
 

山本 今クールは「視聴率がつらいドラマ」なんて記事も出ていたけど、たしかにどれもいまいちハマれなくて。そこで先日Nさんがオススメしてくれたネットフリックスのオリジナルドラマ『アンという名の少女』を見たんだけど、……素晴らしい!

編集N あああ! ずるい! 私はNHKで見たんですけど、8話までしか放送してくれなくて。ついにネトフリに手を出すかどうかで迷っています。

山本 シーズン1は全7話だから、シーズン2の第1話だけ放送して終わったってことね。それはたしかに、すごいフラストレーション。でも是非、続きを見てほしいわ。これは昨今見た中でも、かなり秀逸な一作!

編集N ドラマのベースとなっている『赤毛のアン』じたいを私は知らないんですけど、主役の女の子がアンを演じるために生まれてきたような子ですよね。良い意味でのウザさを見事に演じていて、魅力的すぎる。

山本 うん、もう演技とは思えない。アンとしてしか見れない。

編集N アンがもらわれっ子なのに卑屈にならず、自己犠牲をしない逞しさを描いているところも、きっと原作とは違うところなんでしょうね?

山本 原作も卑屈ではないよ。アンは自らの力で人生を切り開く女性の象徴的存在だから。

編集N あら、そうなのね。だから伝説的な本なのね。

山本 ていうか、さっきからNさんの発言でずっと気になっていたのだけど、『赤毛のアン』を知らなかったって本当かい……?

編集N はい、一度も読んだことないです。

山本 えーーー! 学校で読まされなかった!? むしろ読みたくなくても読まされるくらいの本だったと思うのだが……。

編集N なんででしょうね。今までアンのアニメも観ずに生きてきました。だからこのドラマも原作そのまんまだと思って見ていたら、9歳の娘に「いろいろ違う」と指摘されて、初めて「あ、そうなんだ」と思った次第です。

山本 娘、スマート! いや、私はこのドラマの何が一番新鮮だったかというと、あの『赤毛のアン』を現代のフェミニズム視点で捉えて描いてきたところ。その手があったか!と。そしてその意図も大成功している、と思いました。

編集N むむむ、だったら私は比較ができないので、このドラマを語るに値しないですね……。
 

社会派だけじゃない、イケメンレベルの高さも見どころ


山本 いやでも、原作を知らないからこそフラットな視点で見れるところもあるよね。そんなNさんから見て、このドラマの興味深いと思ったポイントはどこでした?

編集N なんかけっこう差別描写が露骨だな……と。アンが家の手伝いの男の子に高圧的なのとか、アンのことをみんなが当然のようにブサイクだから結婚できないと言うのとか。この時代特有の差別だと思うんですけど、今って差別を濁す風潮もあって真正面から描写するドラマがあまりないから、逆に新鮮でした。

山本 そう言われると、今は様々なコンプライアンスがあって、何も言えないところはあるもんね。かの名作『風とともに去りぬ』も、黒人差別の描写に偏見があるということで、配信停止にした会社もあるほど。今や「これは原作通りですから」というエクスキューズがないと、差別問題は描きにくくなってるのかもしれないね。

編集N 一方でアメリカだと、『アグリー・ベティ』みたいなルッキズムタブーに挑戦するドラマもありますよね。

※『アグリー・ベティ』 ファッション業界という見た目重視の世界で、アグリー(醜い)な主人公の女性が様々な偏見に立ち向かっていく物語。

山本 たしかに。Nさんは8話までしか見ていないとのことだけど、この後ドラマは、LGBTとか人種差別の問題も出てきて、もっと主張が強くなっていくわ……。

ギルバート役のルーカス・ジェイド・ズマン(Lucas Jade Zumann)本人のインスタグラムより。


編集N 私はただ、あのアンのウザすぎるエネルギッシュさと、アンたちが暮らすプリンス・エドワード島の美しい景色を楽しんでいただけなのですが……。あと、ギルバートがまたイケメン過ぎるんだな。

山本 うん、ルッキズムを語っておきながら何だけど、やっぱこれって大事! 

編集N 全てをさらうギルバートのイケメンぶり。しかもめちゃくちゃ優しくて頭も良くて、あんな完璧な男子、いるわけがない。

山本 ギルバートはちょっとタレ目で甘い顔立ちで、もろNさんの好みよね。

編集N みんな好きでしょ、あんなスーパーイケメン。

山本 私はそれより、シーズン2から出てくるギルバートとはまたタイプの違うイケメンが気になっていて。彼はちょっと寂しそうで線の細い感じの美少年なの。

編集N ほほお、それは興味深い。

山本 社会的なテーマを描きつつも、正統派なイケメンでちゃんと視る者を楽しませてくれる。エンタメ作品であることを忘れていない点も、このドラマのハイレベルなところだと思うわ。

編集N いやあ、ススメておいて何ですが、随分ハマってますね。

山本 ええ、めちゃくちゃ。まだまだ語りたいことが山のようにあるので、それは是非、第二回で。

編集N はい、是非。私はどうもフェミニズムに疎いところがあるみたいで。このドラマのフェミ視点がいまいちよく分からないので、そのあたりを教えてくださいませ!
 

文/山本奈緒子 構成/藤本容子


第二回「【年末一気見ドラマ】ルッキズム、女性差別...乗り越えるヒントが満載!『アンという名の少女』」はこちら>>

前回記事「やっぱり妻夫木聡が大好き! 「危険なビーナス」で魅力再燃【秋ドラマ】」はこちら>>

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映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

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文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

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ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。twitter:@fudge_2002

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メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

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ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

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ライター 西澤 千央
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ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。18年に大腸がん発見&共存中。

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ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

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ライター 渥美 志保
TVドラマ脚本家を経てライターへ。女性誌、男性誌、週刊誌、カルチャー誌など一般誌、企業広報誌などで、映画を中心にカルチャー全般のインタビュー、ライティングを手がける。yahoo! オーサー、コスモポリタン日本版、withオンラインなど、ネット媒体の連載多数。食べること読むこと観ること、歴史と社会学、いろんなところで頑張る女性たちとイケメンの筋肉が好き。寄稿中の連載は、
「yahoo!ニュース」『アツミシホのイケメンシネマ』
「COSMOPOLITAN」日本版『女子の悶々』
「COSMOPOLITAN」日本版『悪姫が世界を手に入れる』
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ライター 山本奈緒子
1972年生まれ。6年間の会社員生活を経て、フリーライターに。『FRaU』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。