昨年の6月から、私はほぼ1年をかけて、1つの企業の不祥事報道にかかわっていました。子育て世代に絶大な知名度を誇り、自称100万件のシッティング実績を持つマッチングプラットフォーム、キッズラインです。
きっかけは、1人のシッターの男が2020年4月末に逮捕されたことでした。当初は運悪くわいせつ加害者がたまたま紛れ込んだと受け止める関係者が多かったのですが、実は加害者はもう1人いて、運営会社側が利用者に1件目の事件を周知しない間にも別のお子さんが被害に遭っていました。私はそのことを知り、2人目の逮捕前後でこの企業についての記事を書き続けました。
被害者のお母様はもちろん、編集者も私も子を持つ母親ということもあり、昨年はこの問題への対応に全身全霊をかけました。運営会社の問題点を指摘すると、当該企業は改善策を発表。ベビーシッターが子育ての外部化の手段として定着しつつある過渡期に、シッターの質の確保の必要性と犯罪防止のための企業統治の必要性を訴える報道をできたと思っています。
同時に、この報道は、まわりまわって国をも動かしていくことになりました。行政としてどのように同様の事例を防ぐかを議論するための厚労省専門家会議が立ち上がり、実際に、シッターが犯罪を犯した場合に行政のデータベースに処分歴を記載するという政策につながったのです。
国を動かすまでに至ったのには、もちろん、記事1本で可能になったわけではなく、様々な関係者の方々の尽力がありました。私には私の報道の経緯があり、それも論座オンラインというサイト等で書いてきましたが、一方でその記事を読んだ人がどう動いたか。その裏側を余すことなく記してくれている書籍がこの度、光文社から発売されました。前田晃平さんの『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!』です。
前田さんは、著書でも自称されているとおり、「普通のパパさん」です。NPO法人フローレンスに勤めているとはいえ、ご著書の冒頭で書かれている夫婦の攻防は、どこの家庭にもありそうな「あるある」に溢れています。その前田さんが、キッズラインの記事を見て、娘を持つ父親として、怒りに震え、国を変えようと動き出す——。その様子が第五章に書かれています。
私はリアルタイムで前田さんの動きを知っていた(というかご協力していた)ので、この章に書かれていることに誇張がないことが分かります。前田さんは、想いをnoteに書き綴り、そこからつながっていく協力者との縁と、勤務先フローレンスの強力な支援で、しかし制度に何度も阻まれそうになりながら、2万件の署名を集め、それを大臣に渡しに行くことになるのです。
そして、その様子を大手メディアが取り上げ、その後自民党の政務調査会にも問題提起をしに行くなどされて、結果、本当に国が動きました。
わいせつを働いた人物が子どもに関わらないようにするという政策については、2021年5月、性暴力で教員免許を失効した教員への免許再交付について、都道府県教育委員会が可否を判断できるようになる「わいせつ教員対策新法」も成立。まだ、塾やボランティアなど子どもに関わる人全体に広げるには課題が残ってはいますが、ご著書のタイトル通り、本当に「ニッポンを変える」きっかけの1つを作ったわけです。
本ではこの事件のことだけではなく、子育て初心者のパパが読んでも、いえ子育て中ではない人が読んでも参考になるような基本的なデータや問題の解説をしており、第四章の兵庫県明石市の取り組みなどは私も勉強になりました。
本を読んでもらって、パパたちには家庭進出をぜひしていただきたいのですが、子どもの世話をするというだけではなく、前田さんのように、家庭の問題と思われているような社会問題や政治問題に関心を持ち、当事者意識を持って発信をすることもしてくれたらと願います。
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