日本各地、ふるさとの風景を描き続ける素朴画家・原田泰治さん。北から南から、全国47都道府県すべてを自らの足で歩いて取材し、その土地の季節や暮らし、祭りや日々の小さな風景を作品に残してきました。30年以上にわたる「ふるさとの風景を巡る旅」。その旅の絵222点を都道府県別に収録したのが『原田泰治 ART BOX ふるさと日本百景』(2009年刊)です。
長野県諏訪市の原田泰治美術館では、その絵の中から全47都道府県それぞれ選りすぐりの1枚の原画を展示した「原田泰治と巡る47都道府県 ふるさと日本百景」と題する展覧会が開かれています。あなたのふるさとも、きっとここにある。自由な旅ができにくいこの頃、美術館で巡る日本一周はいかがでしょうか。
温かなまなざしが描くふるさと
福島県を描いた作品の中から、今回の展覧会に登場するのは「デコ屋敷」。待ちわびた春、梅・桃・桜が一度に花をつけることからその名がついたという三春(みはる)の地で、三春人形を作り続けているのがデコ屋敷。デコは「木偶(でく)」がなまったものではないかとも言われ、水田や雑木林に囲まれたのどかな集落に人形師の家が点在しています。農閑期の内職として始められたという人形作り。干支や縁起物を象(かたど)った素朴な張り子に胡粉(ごふん)を塗り、泥絵の具で彩色していきます。
黒光りした大黒柱や囲炉裏のある座敷に広げられた制作中の人形。見学者は自由に作業風景を眺めたり、お気に入りの作品を選んだり⋯⋯。春の日差しを受けて縁側で昼寝するネコまでを、斜め上から捉えた原田さんの視線。それは軒先や高い天井の室内を自由に飛び回るツバメの視線、鳥の眼なのかもしれません。
原田泰治美術館で2004年から毎年続いている企画展が「絵画キルト展」。「原田先生の絵をキルトにしてみたい」という多くのキルト愛好家の声に応えて始まった展覧会の中で毎年、キルト作品の応募が絶えないのがこの「蓮の花」です。石川県石川郡河内村(現・白山市)の蓮田を描いたもので、「朝もやの中で見る蓮の花は、とても神秘的である」と原田さんは語っています。うす紅色の花は、開花のとき「ポン」と音をたてるとか。
毎年のキルト展では、原田さんの原画と、審査で選ばれたキルトが並んで展示されます。一枚一枚、蓮の葉が丹念に描き込まれた原画と、その葉を一針一針手仕事で縫いあげたキルト。どちらも気の遠くなるような作業で、そして温かさに満ちています。
静謐(せいひつ)な紅葉の山と、子どもたちの遊ぶにぎやかな里山の風景を描いた「はしゃぎ声」。益子(ましこ)焼で有名な栃木県芳賀郡益子町を描いたものです。「山の紅葉が、短い秋に精一杯の色付けをし、野には、麦が青々と縞模様を織り込んでいた」と、原田さん。山は冬を迎える前の最後の輝き。未来ある子どもたちと、そして畑の麦は、やがて来る新しい春に向けての準備中です。
チケット読者プレゼントのお知らせ
5組10名様に「原田泰治と巡る47都道府県 ふるさと日本百景展」鑑賞券をプレゼント
原田泰治美術館で開催される「原田泰治と巡る47都道府県 ふるさと日本百景展」(2021年6月17日~2022年2月27日)の観賞券をプレゼントいたします。
応募締め切り:7月14日(水)〜11:59まで
●応募にはmi-mollet(ミモレ)の会員登録(無料)が必要です。
●プレゼントのご応募は、1回までとさせていただきます。
●当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。
会期:2021年6月17日(木)~2022年2月27日(日)
休館日:月曜(祝日開館)、9月14日、12月7日、年末年始
会場:長野県諏訪市渋崎1792-375
TEL:0266-54-1881
美術館HPはこちら>>
*会期中、展示替えがあります。
『原田泰治 ART BOX ふるさと日本百景』
原田泰治・著 2530円(税込) 講談社・刊
行った、見つけた、描いた! 心の故郷風景、季節や祭り、行事や各地のくらしの風景を描いて30年。「原田泰治の世界」選りすぐりの222景がコンパクトな画文集に。変わらないモノ語りを親から子へ贈る。
原田泰治(はらだたいじ)
1940年長野県諏訪市生まれ。63年武蔵野美術短期大学商業デザイン科卒業。82年より朝日新聞日曜版に「原田泰治の世界」を2年半にわたり連載。日本全国各地、アメリカ5大都市、ブラジル2大都市、中米3カ国にて展覧会を開催。現在、デザインの仕事を手がける一方、画家として制作活動を続ける。
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