どんな女優でいたいかより純粋にお芝居が好き
母親役が続くと、女優としては「もっと別の役もやってみたい」と思うこともあるのでは?そう尋ねると「“女優として”という考えはぜんぜんないんです」と、富田さん。
「若い頃は“こういう女優になりたいからこういう役がやりたい”というのもありましたが、今は“自分は作品の一部”だと思いっています。そう考えるようになったのは、子供を持ったことが大きいです。仕事をセーブせざるをえない状況の中で、自分は何が好きなのか?を考えたとき、純粋に、私は芝居が好きなんだなと思ったんですよね。“どんな女優になりたいか”は、そのあたりから関係なくなりました。自分をどう使うかは監督にお任せして、オーダーを受けたことを全力で。実は本番よりも稽古時間のほうが楽しいんです。お稽古場には、役のことだけを考えられる時間があるじゃないですか。本番は怖いです。舞台の経験は豊富なわけではないので、観客とつながる喜び、みたいな部分まではなかなか……そこは松下さんにおまかせして(笑)」
母子家庭の母と息子を、互いに支え合いながらふたりきりで演じたお芝居は、自身とは異なる「息子を持つ母親」の疑似体験のようにも感じたそうです。
「松下さんと最初に出会った時は、私の方が年上だし仕事のキャリアも長くて、なんとなく先輩っぽい佇まいで座っていたんですが、舞台に関しては彼が先輩だったので立場が逆転したり。お互いに、いいものを作りたいと必死だったからそうだったのかもしれないけれど、息子ってこんな感じなのかなあと思いました。何でも話せる友達だったり、頼れる兄だったり、引っ張ってくれる父のようでもあり、慰めてくれる弟のようでもあり、その時によって、かっこいいな、かわいいな、と思える存在なのかなとも感じました。
私の回りにいる男の子のお母さんを見ると、本当に器量から違うんですよね。娘を育てるのとは違う筋肉が鍛えられている感じ。炊飯器も1升炊きを使うとかきくじゃないですか。そういうパワフルさにも憧れます。パワフルな男の子のお母さん役もやってみたいですね」
富田靖子 Yasuko Tomita
1969年生まれ。福岡県出身。1983年映画デビュー作となる「アイコ十六歳」(今関あきよし 監督)で第8回日本アカデミー賞・新人俳優賞受賞。1989年「あ・うん」(降旗康男 監督)で「第13回日本アカデミー賞」で「助演女優賞」優秀賞を受賞。近年の主なドラマ出演作は、NHK「スカーレット」(2019年)、TBS「私の家政夫ナギサさん」(2020年)、NTV「35歳の少女」(2020年)、EX「モコミ〜彼女ちょっとヘンだけど〜」(2021年)など。映画作品は、「友罪」(2018年/瀬々敬久 監督)、「めんたいぴりり」(2019年/江口カン 監督)、「愛唄-約束のナクヒト」(2019年/川村泰祐 監督)、「Fukushima50」(2020年/若松節朗 監督)など。
ヘアメイク/国府田圭
スタイリスト/吉田由紀
取材・文/渥美志保
構成/川端里恵(編集部)
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