イヌの皮をかぶったネコ

仲山 進也(ナカヤマ シンヤ) 
仲山考材株式会社 代表取締役
楽天グループ株式会社 楽天大学学長
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。シャープ株式会社を経て、1999年に社員約20名の楽天株式会社へ移籍。2000年に「楽天大学」を設立。2004年、Jリーグ「ヴィッセル神戸」の経営に参画。2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業自由・勤怠自由の正社員)となり、2008年には仲山考材株式会社を設立。
写真/守谷美峰

著者の仲山進也さんは、1999年に当時社員約20人の楽天に入社。その後、楽天に正社員として所属し続けているものの、兼業自由、勤怠自由という「自由な会社員」。まさにご本人が「組織のネコ」を体現している方です。

――どのような思いで、この本を書いたのですか?

仲山進也さん(以下、仲山):「イヌの皮をかぶったネコ」として働いている人は多そうですし、時代が変化するなかで違和感やモヤモヤ度も高まってきています。そういう「隠れネコ」の人に、「組織のネコ」という選択肢を示すことで「イヌになろうとしなくていいんだ」と気づいてもらえたらと。同時に、「ネコの道があってもいい」という社会的コンセンサス、共通理解をつくれたらいいなと。最近の言葉で言えば、多様性とか、ダイバーシティ&インクルージョンということです。結果として、「いろんなタイプがいていいし、相互理解が大事だよね」という話し合いが生まれるきっかけになればうれしいです。


――本の発売後、多くのネコや、イヌというか「狂犬」からも感想が届いたそうですね。

仲山:「私、イヌの皮をかぶったネコでした!」という反応がとても多いです。レアな感想としては、ある企業で執行役員を務める女性から、「私、めっちゃ犬(しかも狂犬)からのライオンでした」というメールが届きました。「最低限やることもやらないタイプのネコを見るとムカッときて、追い払ったり、かみ殺してきたかもしれない」と(笑)。今、ライオンとなって初めて、「組織にはネコもいないとダメだ」と気づいたそうです。
新規事業を立ち上げたり、変革を進めたりするのが得意なトラやネコがいない組織だと、変化の激しい時代には厳しく、また「忠犬はトラにはならない」と気づいたと。それで、ネコやトラが生息しやすい会社になるよう、組織変革に取り組み始めたそうです。

 


ネコとイヌの相性


――私だけでなく、「イヌの皮をかぶったネコ」の話でスッキリしている人が多いのですね。ちなみに、ネコはどうすればトラになれるのでしょうか。

仲山:まず、「イヌ・ネコ」と「ライオン・トラ」の違いは、パフォーマンスの高さです。誰が見てもわかる大きな成果を出しているのが、ライオンとトラ。

ライオンは、群れを統率する中心的存在、いわゆる「ボス」です。ヒエラルキーのトップに君臨し、組織をひっぱっていきます。ほえると怖いけど、情に厚く面倒見のよい面もあるので、みんなから慕われている。従来の「優れたリーダー像」のイメージです。

これに対して、トラにはあまりボス感がありません。組織の中央にどっしり構えることはせず、現場が大好き。フラットな関係性を好み、組織の際(きわ)のあたりをウロウロしています。ライオンはメインストリームにいて基幹事業を担当しているのに対して、トラは「メインではないところ」にいることが多いです。

イヌはライオンに畏怖の念を抱いています。ガオーってほえられるとビクッとする。
ネコはトラに憧れの念を抱いています。あんなふうに、もっと自由に、もっと活躍できるようになれたらいいなと。

ネコとトラは「組織にいながらも自由に動くことを好む」という点が共通していて、ネコがレベルアップするとトラになります。なお、自由といっても「好き勝手」という意味ではありません。「お客さんに価値を提供する」という軸を外さないのが、ネコ・トラの働き方の生命線です。そうしないと「ただ遊んでいるだけ」の不良社員になってしまいますので。お客さんからの支持をベースに、個性を磨いて突き抜けた強みとして発揮できるようになると、ネコからトラ化します。
 

[それぞれの相性]

 

ライオンとトラは、お互いにリスペクトし合っています。人それぞれ資質が違っているから、得意な役割も違うことを理解していて、お互いに「自分ができないことをあの人がやってくれている」と思えているからです。

その点、イヌとネコはそこまで成熟していないので、自分と違う価値観をバカにしがちです。イヌはネコに対して、「ちゃんと言われた仕事をしようよ」「集団行動を乱すな」などと思っています。ネコはイヌに対して、「言われたことだけやってないで価値ある仕事をしようよ」「上司の顔色ばかり見ていて大変ですね」などと思っています。

しかし、この本を通じて本当に伝えたいことは「自分と違う価値観を理解して、それぞれの特長を活かしたスタイルを編み出してほしい。その上で凸凹をすり合わせながらチームワークを生み出してほしい」ということです。イヌとネコは、得意分野が違います。現状、イヌのほうが多数派かもしれませんが、全員同じスタイルで揃えようとしないことが大事。ネコが無理してイヌになろうと努力する必要はないです。まずは、ネコとしてお客さんに喜んでもらうことを第一に考えて、動いてみてください。