ある日突然BTS(防弾少年団)に“沼落ち”したという小島慶子さん。

今やK-POPアイドルの枠を超え、全世界を席巻するBTS。なぜ彼らはここまで爆発的な人気を得たのでしょうか。BTSがどんなメッセージを発し、
世界中の人々の価値観にどのような影響を与えてきたのか……。本連載では小島さんが、様々な立場の“BTSに精通する人々”との対話を通して、『BTS現象』を紐解きます。

今回は序章として、それまで一切関心がなかったという小島さんが、どのようにして「BTSのある世界」に辿り着いたのかを綴っていただきました。

私の推しは「BTSのある世界」。アイドルに全く興味のなかった小島慶子が“沼落ち”した理由_img0
写真/アフロ

BTSについて、知る旅を始めることにしました。私が突如好きになったものが、何であるのかを探るためです。

タイトルに「研究所」と銘打っていますが、BTS自体を研究するのではありません。それなら、本物の学者たちが既に何冊も、専門的な見地から書いた本を出しています。リアルタイムで研究が進められているのです。毎年「BTS学会」が開かれているくらいですから!(2022年は7月にソウルで開催予定)

この連載では、思いがけない沼落ちの混乱の最中にある私が、BTSの中に、あるいはBTSを通じて、何を見つめ、何に惹かれ、何を知りたいと思っているのかを考察します。そして他のBTSファンが、彼らに何を見ているのかも。

 

そうした無数の「私とBTS」が集まったファンコミュニティが作り出す「BTS現象」と言われるものについても、もっと知りたいのです。

個人的なことは、必ずどこかで社会とつながっています。そして多くの人を惹きつける強力な磁場では、時に大きな摩擦や混乱も生じます。BTSの周りで、いったい何が起きているのか……この迷子の新参者の頭では、とても考察しきれません。

そこで、いろんな人の話を聞きに行くことにしました。ある人は学術的な分析を、ある人は音楽的な評論を、またある人は個人的なストーリーを聞かせてくれることでしょう。

あなたがBTSにまるきり興味がなくても、きっとこの連載には共感するポイントが見つかるはずです。これは「人が何かを好きになるときには、何が起きているのか」を知る旅でもあるからです。同時に、今あなたが生きている世界の新たな一面を知ることにもなるでしょう。

全く興味のなかったものが実はずっと探していたものにつながっていた、なんてことはよくあります。この連載が誰かにとってそんな意外な出会いの場になったら、とても嬉しいです。

沼に落ちたというと、真っ先に「推しは誰ですか?」と訊かれます。ああ、それなら決まっています。私の推しは「BTSのある世界」。彼らと出会って、それまで全く見えていなかった世界の新層を知ったから。見慣れた景色の中で、変化はとっくに始まっていたことに気づいたのです。それが私の“沼落ち”でした。

今、失笑して読むのをやめようとしている人もいるでしょう。気持ちはわかります。1年前の私がそうでした。親子ほども歳の離れたアイドルを熱く語る同世代女性に、微笑ましいような痛々しいような憐憫の情を感じたものです。

これまで、そんな偏見を持つに至ったのはなにゆえかを自問したことは、一度もありませんでした。偏見どころか、アイドルを敬遠するのは教養ある態度だとすら思っていたのです。

2021年9月、“沼落ち”の瞬間


BTSには、スマホの中で何度も出会っていました。でも、10代の2人の息子を持つ私の脳は、若い男性の画像を自動的に「子どもたち」というフォルダに入れてしまうため、ほとんど印象には残りませんでした。彼らはニュースサイトの人気記事の見出しに過ぎなかったのです。

しかしある日、BTSが私の興味関心分野のセンターステージに姿を現しました。2021年9月の国連総会でのスピーチです。

私の推しは「BTSのある世界」。アイドルに全く興味のなかった小島慶子が“沼落ち”した理由_img1
国連総会 SDGs関連イベントで演説するBTS 写真/アフロ