日本のメディアの内側で起きている変化


昨年2月の森喜朗氏の女性蔑視発言への批判然り、こうした社会の変化がここ数年で加速している一因として、日本のメディアの中から変化が起きていることが挙げられます。マッチョな職場の典型でもあるメディア業界では、職場のルール作りでもコンテンツ作りにおいても、ジェンダーやハラスメントの問題が軽視されてきました。それが今は、新聞社や放送局が同業他社と連携してジェンダーやダイバーシティに関する企画を打ち出したり、「生理の貧困」「更年期」などを社会課題として真剣に取り上げるようになっています。

働く女性の中で最も人口が多いのは、今ちょうど更年期の前後に当たる人たち。幹部への道を打診されたり、手を上げようというタイミングで、心身の不調に見舞われます。しかし上司や同僚が男性ばかりの職場では相談もできず、思い切って打ち明けても理解されないばかりか、収入減や休職、退職に追い込まれることも。その人数は推計で75万人とも言われています

 

表面上はハラスメント対策が整っている職場でも、男性たちが本音では男尊女卑だったり、ジェンダーの課題に無関心だったりすれば、肌でわかります。もし、職場の会話で今回の伊東氏のような女性蔑視発言が聞き流され、笑って同調する人がいたら、女性は自分の更年期や生理に伴う困難などを周囲に相談できるでしょうか。とても言い出せませんよね。それではいつまで経っても職場における本当のジェンダー平等は実現できません。

私もNHKの「#みんなの更年期」キャンペーンに参加し、他にも複数の媒体で自身の更年期について発信しています。女性が自身の体や加齢に伴う変化について語ることをタブー視せず、周囲に知識を広め、相談できる場を増やしたいからです。この企画には女性の記者やディレクターが熱心に関わっており、現場では男性のスタッフも真剣に向き合っていることが伝わってきました。

私が自身の更年期について語ろうと思ったきっかけは、30代半ばのある出来事にあります。バラエティ番組の男性司会者から「よっ、更年期!」と何度も言われたのです。この男性は更年期が何かもよく知らず、単にもう20代ではない女性を揶揄う意図でそう言ったようでした。私はまだ更年期ではなかったですが、女性の閉経や更年期が滑稽で間抜けなもののように扱われ、外見の変化や年齢を重ねることが揶揄される風潮を変えたいと、このとき心の底から思いました。

こんなの“芸”じゃないし、“愛あるいじり”なんかじゃない。私はそんなものに加担したくない、絶対に同調するもんか、と思いました。だから、何度やられてもその“おばさんいじり”には乗らなかった。そしていよいよ自分が更年期を迎えた今、そうした空気を変えたくて発信しています。

25年以上、放送メディアの世界で仕事をしてきて、「女性を馬鹿にしたり軽んじたりしても構わない」「いじりは愛情表現」というテレビの世界の”常識”が、視聴者に根深い性差別意識を植え付け、人権感覚を鈍麻させてきたことを痛感しています。何十年もの間、メディアでのそうした振る舞いが職場や家庭や学校で再生産され、ハラスメントやいじめが「日常会話」「よくあるネタ」として許容されてきました。今、日本の社会で責任ある立場にある40〜50代は、子どもの時からそんなメディア表現を浴びるように見て育った世代です。私自身もそれに気づき、アンインストールするのにとても時間がかかりました。

伊東氏の発言は、あらゆる点から見て、根本的な「他者への敬意」が完全に欠落しています。ケアとシェアとリスペクトが基本の時代に、このような発想の人物がロールモデルとなることがあってはならないと思います。

今回の一件は、どれほどビジネスで成果を上げても、上辺だけのSDGs仕草では生き残れないことを示す事例となりました。受講生たちにとって多くの学びのある、生きた教材となったことでしょう。

「生娘シャブ漬け戦略」の伊東氏は「昭和の負のレガシー」を引き継いだ団塊ジュニア_img0
 


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