スタイリスト福田麻琴さんが愛してやまない「山葡萄のかご」は、ミモレストアの構想時から真っ先にお話にあがっていたもの。元々かごバッグが大好きで、自分で作ってみたいと加根古工房のかご編み教室にも通っていた福田さんと、理想の山葡萄のかごバッグを別注にて制作しました。今回は福田さんとともにかごバッグを制作いただいた群馬県の加根古工房へ。バッグ作りの様子を伺いました。まずは毎年6月、梅雨の頃に材料となる山葡萄の蔓(ツル)を採取するところから始まります。


山葡萄のツル採りは群馬の山奥へ

工房を構える群馬県の赤城山、武尊山、皇海山に自生する良質の山葡萄を求めて山の奥へ。山葡萄のツル採りは、毎年6月に行います。梅雨の時期、水分をたっぷり吸い込んでふやけた状態のツルは、この時期だけ人の手でくるくるとキレイに剥けるのだそう。 その採取期間は短く、1年のうち3週間程度しかチャンスがないのだとか。
大きな木に巻き付いて自生しているのが山葡萄のツル。周辺の木々に巻きついて生えているものを切っていきます。
採ったツルの皮を手作業で丁寧に剥いでいきます。直径10センチ近くあるツルは、まるで木のようなしっかりとした太さです。外側の鬼皮を剥ぐと、内側からきれいな皮が出てきます。
採ったツルを担いで山を下ります。剥いだばかりの皮は水分を含んでいて重く、背負って運ぶのも重労働です。

熊と遭遇することも珍しくない(!)という山間で、すべて人の手で採取されているのも驚きですよね。自然豊かな森林の中で育つ山葡萄のツル、大変希少な材料なんです。

ツルを加工してかごバッグへ

水に3時間ほど浸してやわらかくなったツルを、カッターの刃を付けたお手製の道具を使って、ひご状に割いていきます。薄くしすぎると丸まってしまい、厚すぎても板のようになってしまうので、ツルの厚みによって適切な幅に切り出していくそう。熟練の技が必要な作業です。
均一の幅に割いたひごを束ねていきます。こんな風に曲げてもパキッと折れることなく、しなやかでとても丈夫なんです。
木型に合わせて、底の部分から編んでいきます。編み目が均一になり、すき間が出来ないよう、目を詰めながら少し編んだら乾かす、という作業を繰り返します。

1つのバッグを編み上げるのに、組み手が取り組んでからおよそ70時間。多くの手間と時間が費やされて完成します。記事下にバッグを編んでいく様子が分かる動画もありますが、ひとつひとつ丁寧な手作業で行われます。

希少なかご編みの技術を次の世代に

棚に並んでいるのはかご編み教室に通う生徒さんの作品。「編み方も素材も色々あって、他の生徒さんの作品を見るのも楽しいんです」と福田さん。

目黒にもある工房では、かご編みのワークショップも開催され、希少なかご編みの技術を体験できる機会も。福田さんも以前通っていたそう。「元々かごバッグが好きだったので、自分の好きなデザインのものを作ってみたくなって。でも簡単ではなかったですね(笑)」(福田さん)

山葡萄のかごは100年経っても丈夫。
徐々にレザーのような質感に変わる“一生もの”

手前右側の黒い艶のあるカゴは、およそ100年近く経っているものだそう!丈夫な山葡萄のかごは、色合いを変化させながら、どれもしっかりと形を保っている耐久性の高さにも驚きです。 さらに、山葡萄のツルから出る油分によって、時間の経過とともにレザーのようなツヤと滑らかな質感に変化していくのも特徴です。
3つのお財布で、経年変化による色の違いを比較してみました。右側が最近の作品、真ん中は1年経過、左側は3年ほど経過したもの。色味がだんだんと濃くなり、光沢が増しているのが分かりますね。

今はもちろん、おばあちゃんになるまで長く使えるものを作りたい、と思ったとき最初に思い浮かんだのが山葡萄のかごバッグだった、という福田さん。10年20年と時間をかけて育てていく楽しみがあるのも魅力ですし、次の世代へ受け継ぐことができる一生ものです。

また、籐などの素材に比べて深みのある色合いも山葡萄のかごバッグならでは。夏だけでなくウールやファーなど冬の着こなしにもマッチ。洋服にも和服にも、コーディネートを問わず1年中活躍すること間違いなしの逸品です。

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撮影/沼尾翔平
写真提供/加根古工房
取材・文/出原杏子
構成/朏亜希子(編集部)