ある日突然BTS(防弾少年団)に“沼落ち”したという小島慶子さん。

今やK-POPアイドルの枠を超え、全世界を席巻するBTS。なぜ彼らはここまで爆発的な人気を得たのでしょうか。BTSがどんなメッセージを発し、世界中の人々の価値観にどのような影響を与えてきたのか……。本連載では小島さんが、様々な立場の“BTSに精通する人々”との対話を通して、『BTS現象』を紐解きます。

今回は、韓国屈指の韓流・K-POP研究者と言われるソウル大学教授、ホン・ソクキョン氏と、小島さんのオンライン対談が実現。

ホン・ソクキョン教授は、BTS現象を学問的な視点でわかりやすく解説した『BTSオン・ザ・ロード』の著者でもあります。

BTS現象とは何なのか、そしてそれを生んだ社会的・文化的背景について理解を深めるべく、小島さんがさまざまな疑問をホン先生にぶつけてきました。3回にわたって、対談をお届けしています。

 

前回記事「「BTSに対する韓国人たちの反応」とは?韓国屈指のK-POP研究者と、小島慶子の対談が実現!」はこちら>>

BTSが持つ「ソフトな男らしさ」。彼らが世界に見せた、全く新しい男性のイメージとは?_img0
 

小島慶子さん(以下、小島):前回お話しいただいた兵役の問題は、ファンも非常に気にしていることだと思います。ホンさんはご著書『BTSオン・ザ・ロード』の中で、BTSは今までのような“支配的な男らしさ”とは異なる“ソフトな男らしさ”、いわば新しい男性性を提示している存在だと指摘していますが、そんな彼らが、いわゆる伝統的な男性性の象徴である兵役に行くことは、彼ら独自の人気のベースにもなっている“新しい男性性”にどのような影響を与えるとお考えでしょうか。

ホン・ソクキョン教授(以下、ホン):私は兵役によって彼らが何か変わったり、男性性に影響があるとは考えていません。軍隊の訓練より今の事務所のレッスンのほうが厳しいからです。休みもないし、ダンスの練習は軍隊の訓練よりハードなのではないかと思います。韓国の軍隊はここ数年で急速に変わっていて、昔のようなマッチョな場所ではないのが現実です。かなり民主化されていて、スマホも使えるし、親にも会うことができるし、上官も昔ほど厳しくないんですよ。

また、“新しい男性性”についてですが、BTSに限らず、K-POPファンの大半が女性なので、女性ファンとコミュニケーションを取るうちに優しい雰囲気が出てきたりするんです。K-POPアイドルは皆で合宿生活を送り、その過程でとても仲良くなります。欧米では、男性同士が(親愛の情を示す意味で)体に触れ合うのを性的な文脈で捉える人がいますが、それは欧米の古典的な男らしさに囚われているからこその見方でしょう。

こうしたK-POPアイドル特有の雰囲気は、韓国では普通のことですが、海外の人々からすると、従来の男らしさに代わる“オルタナティブな男性性”に映るのではないでしょうか。

K-POPの収益は、韓国が10%で残りは海外と言われており、国外ファンのほうが多い状態です。BTSは優しく善良で美しい男性ですが、それは欧米では生産されなかった文化なので、海外の人たちは、BTSを自由に解釈し、彼らを見ながら自分たちのアイデンティティを定義するのに活用しているのでないかと思いますね。