BTSの核心となる、女性ファンのパワー


小島: グローバルなファンから見るとBTSは“オルタナティブな男性性”を持っているとのことですが、韓国の男性から見た場合はどうなのでしょうか。

ホン:前回も申し上げたように、男性のファンだけを切り取って観察したことはありませんが、コメントなどを読む限り、韓国の男性は「BTSは自分たちとは違う」とは感じていないように思います。韓国の男性はソフトになってきています。特に若い世代の男性は身だしなみにも気を遣うし、柔らかい雰囲気にするのが正解、という傾向がありますね。

ただ、アイドルにはトレンドセッターとしての役割があるとはいえ、人々の考えを変えるほどの大きな影響力があるかは、私にはわかりません。でも今質問を頂いて、男性アイドルの男性ファンについても研究し、どんな影響を受けているのか知りたいと思いました。男性でBTSを好きな人はたくさんいますが、ファンだとカミングアウトする人は少数なので、研究するのは難しいのですが。

BTSとK-POPの核心となっているのは、女性ファンの力です。女性の作った文化だからこそ、カルチャーの中で正当化されるのが難しいのだと思います。アメリカの大衆文化はエリートによって作られ、ファンの間では、グラミー賞は白人の男性が審査員なので賞は得られないだろうと言われてきました。

今年は受賞を逃したものの、グラミー賞を彼らが獲得したとすれば、支配的な男性文化が女性の文化を下に見てきたというパラダイムを変え、女性たちの力によって成功したBTSの音楽を正当化する機会になると思います。

BTSが持つ「ソフトな男らしさ」。彼らが世界に見せた、全く新しい男性のイメージとは?_img1
受賞は逃したが、グラミー賞のパフォーマンスは賞賛を受けた


プロデューサー、パン・シヒョクの存在はBTSの成功にどう作用したのか


小島:パン・シヒョクさん(BTSの生みの親であるプロデューサー)にもとても関心があります。彼はソウルで生まれ、小さい頃から音楽の教育を受け、ソウル大学に入り、優秀な成績で卒業する……という、いわば格差社会の”勝ち組”とみなされる人ですよね。

ホン:パン・シヒョクさんは、ソウル大学美学科を首席に近い成績で卒業したエリートで、ご自身もエリートであることを大変誇りに思っている人物です。

 

小島:そのパンさんが大手芸能プロダクションから独立して作った会社で、なぜ地方や郊外出身の少年たちのヒップホップグループという、メインストリームではないジャンルのアイドルを育てようとしたのかに興味があります。

ホンさんもご本で書いているように、BTSの歌詞の世界というのは、ユング心理学やギリシャ神話など、ある程度教育資本に恵まれた人たちが知っているような教養に基づいて、そこから引用する形で世界観を作っています。
そこにはやはりパンさんの影響があるのでしょうか。なかでも、ものを考え言語化することに長けたRMとパンさんの出会いは、BTSが階層を越えたファンを獲得する世界観を持つグループに成長していくうえで、どのように作用しているとお考えでしょうか。