ある日突然BTS(防弾少年団)に“沼落ち”したという小島慶子さん。

今やK-POPアイドルの枠を超え、全世界を席巻するBTS。なぜ彼らはここまで爆発的な人気を得たのでしょうか。BTSがどんなメッセージを発し、世界中の人々の価値観にどのような影響を与えてきたのか……。本連載では小島さんが、様々な立場の“BTSに精通する人々”との対話を通して、『BTS現象』を紐解きます。

今回は、韓国屈指の韓流・K-POP研究者と言われるソウル大学教授、ホン・ソクキョン氏と、小島さんのオンライン対談が実現。

ホン・ソクキョン教授は、BTS現象を学問的な視点でわかりやすく解説した『BTSオン・ザ・ロード』の著者でもあります。

BTS現象とは何なのか、そしてそれを生んだ社会的・文化的背景について理解を深めるべく、3回にわたって対談をお届けしています。

 

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年齢の壁にぶつかりながらも...。コロナ禍でもBTSが世界的な人気グループに成長した理由_img0
 

――今週はいよいよホン教授との対談・最終回。前回に引き続き、生みの親であるパン・シヒョクプロデューサーがBTSに込めた思い、そしてパンデミックが彼らに与えた影響についてお話を伺います。

小島慶子さん(以下、小島):ホンさんもご著書『BTSオン・ザ・ロード』で触れていますが、パン・シヒョクプロデューサーは、BTSを既存のロボットのようなアイドルにするのではなく、自分たちの体験に基づいた言葉を語らせ、かつファンとのコミュニケーションの中でフェミニズムに対する理解を深めるなど、自ら学んで成長していく形のグループとして育てました。

パンさんがBTSを育てていく背景にある思いは、どのようなものなのでしょうか?

パンさん自身もヒットメーカーとして熟知しているように、アイドル産業では既存の成功モデルが出来上がっています。むしろそうした常套手段への異議申し立てとも取れるような見せ方で、BTSというグループを育てていくのはリスクのある挑戦でしたよね。
そこには、パンさんならではの哲学や信条があったのでしょうか。ホンさんはどうお考えですか。

ホン・ソクキョン教授(以下、ホン):パンさんがいつも言っているのは、「善なる影響を与えるグループを作りたかった」ということです。

今のような状況になったことについては、おそらくパンさんもBTS自身も驚いているでしょうし、韓国の人たちも非常に驚いています。昨年のグラミー賞の授賞式の前に制作された韓国のテレビ番組で、BTSがこう話していました。「デビュー当時は、他のアイドルと同じように人気を得て、年末の賞レースに勝って、7年目くらいにもしかしたら解散するのではないかと思っていた」と。
※K-POPには「7年目のジンクス」という言葉があり、所属事務所との最大契約期間が7年のため、多くのグループが契約更新のタイミングで脱退や解散の危機に直面する

これほど大きな風が吹き、高い所に上り詰めたのは世界のARMYの力です。それは、本人たちも韓国の人たちも、世界の人たちも想像していませんでした。

一般的なアイドルは自分で声を上げることはなく、芸能事務所によって作られるものです。しかしそれでは世界市場を掴むことはできないのだと、パンさんは明確にわかっていたのだと思います。

だから自分の声を持ったアーティストをアイドルシステムの中でどう作るか考え、一番最初に注目したのがRMとSUGAだった。パンさんは、最初はヒップホップグループを作ろうとしていましたが、その過程でこう思ったのでしょう。ヒップホップだけでは、世界で大きなファンダムを作ることはできない。ソフトなポップスや、スペクタクルなダンスを取り入れなければ、と。
それを可能にしたのが、RMやSUGAなのです。そして試行錯誤を重ねてデビューしたのが、BTSの7人だったのです。
※ファンダム:特定の分野を熱心に愛好するファンたち、また彼らによって形成された文化のこと

小島:パン氏には、音楽で世界に善なる影響を与えたいという強い動機があったのですね。それは実際に、ARMYというファンダムの在り方にも表れているように思います。