夫がノイローゼから回復しない理由
「この頃、3人育児の大変さを訴えていた夫に、私がきちんと向き合えなかったのも悪いと思います。いよいよ商品の販売を開始する時期は1分1秒も惜しいほど忙しく、仕事を投げ出すこともできず、子どものお世話は彼に任せないわけにはいかず……。すると彼が病み始めてしまったんです」
雅之さんは「育児ノイローゼになってしまった」と言い、無気力で寝込むように。茜さんは家事代行やシッターさんを手配、そして当時小学一年生、5歳、0歳だった子どもたちはなるべく学童や保育園に長時間預けるようになりました。
だいぶ雅之さんの負担は減ったように思えますが、それでも彼の状態は変わらず。子どもたちを預けている平日昼間の時間帯はおそらく休息していたようです。
「正直、そんな彼を見ていると『暇そうだな』と思いました。ノイローゼと言っても、病院で診断されたわけではなく、通院などもしていなかったので……。『俺もそろそろ働きたい』とも言っていましたが、やはり仕事を探したり具体的な行動をする感じはありませんでした。実際、あの頃夫が昼間に何をしていたのかは知りません」
そんな夫にたびたび疑問を持ちながらも、茜さんは静観を続けていました。仕事に手一杯であまり構う暇もなかったようです。またこうした状態であったとしても、子どもが3人いるという現状、夫が家にいてくれる方が大黒柱の妻にとっては安心でもありました。
あくまで筆者の憶測ではありますが、この場合の育児ノイローゼは、もちろん専業主夫が大変ではあっても、おそらく育児や家事の量という物理的な問題ではなかったのだと思います。
雅之さん自身の選択ではありましたが、専業主夫として家庭のみで子どもと過ごす日常が孤独だったことは想像できます。そんな中、妻がどんどん外へ出て新しいことへ挑戦し、社会的評価も上げていく。通常、このケースは母親の話として聞くことが多いですが、女性の場合は女性同士のおしゃべりなどである程度は軽減しやすい印象。
雅之さんの場合はこの寂しさをうまく表に出せずに、「育児ノイローゼ」となったように感じました。きっと茜さんを求め理解して欲しかったのでしょうが、心の中を曝け出すこと、また仕事などを始めてご自身で立ち直る勇気がなかなか出せなかったのかもしれません。
「この状態がしばらく続くと、家庭は表面的にうまくいきつつも、夫婦の愛がだんだんと右肩下がりに冷めていく感じがありました。もともと男らしくて根拠はなくても自信に溢れた明るい彼が好きだったので、無気力でいつもどこか不機嫌な彼に尊敬の気持ちも薄れていって。でもそれは彼の方も同様で、夫婦の会話も少なくなっていきました」
様々な夫婦の話を聞いていると、正直なところ、ほとんどの夫婦は数年の時が経てば情熱は冷めていく(落ち着いていく)と思います。それでも子どもがおり、家庭内がそれなりに平穏に成り立つのであれば、そのまま結婚存続させる場合がほとんど。
けれど茜さんは違いました。愛のない結婚生活はできないと判断し、離婚を決意したのです。
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