時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会現象について小島慶子さんが取り上げます。

こんまりが、片付けをやめた……一報は世界を震撼させました。これまでに、部屋を散らかしただけで人類に地球規模の衝撃を与えた人がいたでしょうか。三人の子供を育てているこんまりこと近藤麻理恵さん。出産・育児を経験して、部屋が片付かないことを受け入れたといいます。今や「自分は寝る前に顔を洗って歯さえ磨ければOK、子供は元気に生きていればまずはOK」というレベルまで基準を下げたそうです。これにはたぶん全世界で50億人ぐらいが「だよねー」と言ったでしょう。

 

こんまり片付け断念を報じた記事の中には、「ようこそこちらの世界へ」とかいうコメントの書き込みがあったと報じているものもありました。本当かどうか知りませんが、まあ同感です。娑婆へようこそ。私は息子たちが幼児だった時には、膝から下の世界は存在しないと思うことにしていました。乾いた洗濯物はソファの上のカゴの中に積んであれば片付いているとみなすことに。今もパースの家では洗濯物ルールは現役です。

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東京の一人暮らしの部屋では、ギャベの上が積読ランドに。30平米の大変快適な部屋ですが、積読ランドがなければもう少しスッキリするはず。でも片付けねばならない場所と看做すのをやめて、「あったはずのもう一つの人生置き場」だと思うことにしました。この本やあの本を読みながらゆったり時を過ごし、12時にはベッドに入る素敵な生活が、きっと違う宇宙の私の人生にはあるはず。それを今次元で形にして見せてくれているのが、この数十冊の本なのだと。

こんまりが「これからは部屋を片付けるのではなくて人生の優先順位の片付け方を追求する」的なことを言っていたのは、私なりに勝手に解釈するとたぶんこういうことなんじゃないかと思います。

目に映る情報の解釈を変えることで、わたしたちの脳に映っている世界は「片付く」。こんまりの脳は今、濡れた歯ブラシと子供の寝顔を見たらもう世界は片付いていると思えるモードなのです。なんという柔軟性。人の脳の順応力の高さよ。こうして片付けないこんまりは、また新たな救世主となったわけです。あれだけ片付けた人でも、片付けをやめた。人生には片付けられない時があることを認めていいんだと。