平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。
第92話 友達がいない その3
「みんな、こちら亜紀ちゃん! 先月東京から旦那さんの転勤で引っ越してきたんだって」
「よろしくお願いします、山村亜紀です。東京以外に住むのが初めてなので、いろいろ教えてください」
私はアパートの一室で頭を下げた。
今日は「友達の家で料理&ランチ会」ときいていたので、シンプルで清潔感のあるカットソーにフレアスカートで来たけれど、いくつか想像と違うところがあって戸惑った。
まずみんなで料理をするといっていたけれど、ちゃぶ台の上にはすでにパンや肉じゃが、茶わん蒸しが並んでいる。ちょっと奇妙な取り合わせ。それから調味料だろうか、プラスチックの液体容器がまるで理科の実験のように脇にたくさん並んでいる。
そもそもこちらのお宅……アパートの2階の玄関をあけたらすぐに和室。右隣の部屋はふすまで仕切られているけれど、イメージしていたいわゆるママ友のお宅にしては生活感がない。アパートの廊下側はキッチンだけれど、そこも同様だった。部屋の隅には段ボール箱が5つ、積まれていた。
誰かの家、というよりは、事務所のような雰囲気。
それでも理絵ちゃんが紹介してくれた6人の皆さんはとっても愛想よく私を迎えてくれた。
「亜紀ちゃん、初めまして~! 理絵ちゃんが素敵なひとだから紹介したいっていうから楽しみにしてたんだあ。東京からきたら寒いっしょ? ちょうどパンが鍋で焼けたから、食べて食べて」
――こ、これは念願の女子会……! 久しぶりの友達とのランチ!!
私は些細な違和感を全部払いのけて、「はい!」と大きく返事をした。理絵ちゃんも彼女たちの横に並び、にこにこ、にこにことこちらを見ている。
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