こんにちは。週のまんなか水曜日、いかがお過ごしですか?
今日は、「時とつながる」の日にしたいと思います。

「好きな画家は?」と聞かれたら、この人を答えます。

 

マリー・ローランサンです。

ピンクとグレーの色使い、雲の中にいるようなふわっとした線、憂いを秘めた視線。絵から感じられるアンニュイな雰囲気が大好きです。

先日、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の「マリー・ローランサンとモード」展を見に行ってきました。実はマリー・ローランサンの作品は、そのほとんどと言ってもよいくらい、かなりの数が日本にあるんですよね。以前は長野にあり、数年前は東京のホテルニューオータニ内にあった「マリー・ローランサン美術館」が所蔵しています。

Bunkamuraザ・ミュージアム「マリー・ローランサンとモード」~4/9(日)まで。館内の作品は一部撮影可です。


1883年生まれのローランサン(ちょうど私と100歳違い!)は自由な空気のパリで、様々な人、様々なアートとともに生きてきた女性。ピカソを代表とするキュビズムに影響を受けた絵画や、バレエ・リュスと呼ばれるロシアのバレエ団での衣装デザインなど、出会いから新しいものを生み出していくアーティストだったようです。

展覧会では、ローランサンがパリで活躍し始めた1920年代、つまり第一次世界大戦後の作品が数多く見られました。

「マドモアゼル・シャネルの肖像」1923年


そんなローランサン、実は詩人でもありました。

『鎮静剤』
退屈な女より もっと哀れなのは 悲しい女です。
悲しい女より もっと哀れなのは 不幸な女です。
不幸な女より もっと哀れなのは 病気の女です。
病気の女より もっと哀れなのは 捨てられた女です。
捨てられた女より もっと哀れなのは よるべない女です。
よるべない女より もっと哀れなのは 追われた女です。
追われた女より もっと哀れなのは 死んだ女です。
死んだ女より もっと哀れなのは 忘れられた女です。
(マリー・ローランサン作 堀口大學訳)
「白い羽飾りの黒帽子をかぶった乙女」1915年


絵画にでてくる物憂げな女性たちと重なるような悲しい詩。1914年にドイツ人男性と結婚したローランサンでしたが、不幸なことに結婚式直後に起きたサラエボ事件をきっかけに、フランスとドイツは戦争で敵対してしまいます。

亡命し、7年もの年月をスペインで過ごした夫婦の関係は悪化。当時書いたポエムが『鎮静剤』でした。

戦争が終わり、夫とも別れて母国に戻ったローランサンは、前述のとおりパリで活躍し始めます。美しい絵画の中に、常に物憂げな色彩が描かれるのは、そんな悲しい7年間があったからなのかもしれません。

「わたしの肖像」1924年


時代が変わっても、生きた人間の心に積もった記憶は変わりません。時とともに忘れていくことだってあるけれど、サラサラと降ってくる砂時計のように、層となってずっとそこにありつづけるもの。

芸術として昇華していったローランサンの作品は、誰の心にもきっと潜んでいるであろう悲しみの層に、そっと寄り添ってくれるような気がします。ふわっと、雲のように、優しい色彩で。

「ばらの女」1930年

私の好きな画家はマリー・ローランサン。久しぶりに会えて、うれしかったです。


さて、本日の司書箱です。

結城昌子『ローランサンの絵本 忘れないよ』子どもも大人も楽しめる「小学館あーとぶっく」シリーズ。読者とおしゃべりしながら絵を鑑賞するような構成です。文章のフォントや色使いもきれい!


それでは、よい日々を♪