——柚木さんご自身は大学は奨学金を借りていらっしゃらなかったんですよね。

柚木:借りていなかったです。そんな私が実際に調べてみて、改めて奨学金制度は難しすぎると思いました。当事者もわかっていないことがいっぱいあるくらい。

「満州事変の直前に似ている」作家・柚木麻子が若者の「失敗できない」という空気感に感じること_img3
写真:Shutterstock

——最近でも給付型奨学金と授業料減免の対象を子ども3人以上の多子世帯や私立校の理工農系学生に限って、保護者の世帯年収の上限を従来の約380万円から約600万円に緩和する政策が打ち出されたり、奨学金の減免の要件として地方で結婚・出産が検討されるなど、奨学金を取り巻く状況は目まぐるしく変化していますね。

柚木:不安を抱えてバイトと勉強で忙しい子にそれを全部把握しろなんてどうかと思います。
それで必要事項を一個でも取りこぼしたらお前が悪いと言われて。
もっとわかりやすくしてほしいと思いましたね。

 

「失敗できない」生き方を若者たちに強いていいのか


——奨学金を借りた学生には自己責任の目が向けられます。奨学金を返済することだけを主眼に置いた真央の人生は、世間からは堅実だと褒められるかもしれないけれど、一方でその生き方を若者が強いられていいのかとも思います。

「満州事変の直前に似ている」作家・柚木麻子が若者の「失敗できない」という空気感に感じること_img4

 

柚木:真央は失敗できないんです。なんで真央が四葉さんを見たときにすぐに好きになったかって言うと、「失敗した人」だからなんです。自己責任において恵まれているけど失敗した、という一点に惹かれたんです。ミャーコ(四葉の同級生)と腐れ縁なのも同じで、ミャーコが失敗だらけだから。真央は失敗したら終わりだし、バイト一日休んだら終わりっていう状況なんですね。

——四葉さんのセリフでも、「私は失敗ばかりしてもなんとかなってるのに、真央さんみたいにちゃんとした人はたった一回の失敗も許されないなんて、そんなのおかしい」という言葉が出てきますね。

柚木:私は就職氷河期世代ですが、下の世代に比べるとなんだかんだ失敗できた年代なんです。すごく恵まれていたし、下の世代には自分たちの世代のツケを払わせていると思うとすごく申し訳ないんですけど。

失敗できたからキャリアに繋がった、失敗できたから財産になった、ということがすごくいっぱいあるんです。日本がまだマシだったから。昭和の偉人の話とか読むと、失敗の嵐なわけです。成功からだけでは学べないこともある。失敗できないと何も生まれない。でも、今の世代は失敗しながら上にいくことができないんだ、と書きながら思いました。