韓国社会が進めてきたグローバル化を、日本も追いかけている?


小島慶子さん(以下、小島): 韓国では1997年のIMF危機以降グローバル化に力を入れ、国ぐるみで英語教育を強化し、親たちの英語教育熱が高まりました。今人気のアイドルグループの中にも英語が堪能なメンバーや多様なバックグラウンドを持つメンバーがいますよね。今や世界で最も人気のあるガールズグループとなったBLACKPINKのジェニーはソウル生まれで9〜14歳までニュージーランドに単身長期留学。ロゼはニュージーランドで生まれ、オーストラリア育ち。タイ出身のリサは練習生になってから英語などを習得し語学堪能。最近人気のNewJeansのミンジはカナダでのホームステイ経験があり、ハニはベトナム系オーストラリア人、ダニエルは父親がオーストラリア人。かつて韓国から英語圏に移民した人や、近年子どもを留学させた人たちは、異国で苦境を経験したり、韓国内にいてもグローバル化する世界での生き残りに危機感を持って生きてきたわけですよね。

NewJeansの5人。写真:Mydaily/アフロ

ハン・トンヒョンさん(以下、ハン): 男性グループも含めて“多国籍”であることがスタンダードになっていますよね。今の韓国のアイドルグループは、グローバルな展開を前提に結成されるので。かつて海外に出ていった韓国系の人たちに加えて、少し前は中国や台湾から、そして東南アジア各国、とくに最近の傾向としては、日本人のメンバーが増えています。これはここ20年で、各国にK-POP・韓流が根づいたことの反映でもあるでしょう。

小島:実は私も、息子たちが日本以外でも生きていけるようにと、約10年前にオーストラリアに教育移住したんです。と言っても、’00年代から韓国で社会問題化しているキロギアッパ(雁の父さん)と同様のスタイルです。私はもっぱら日本にいて一人で働き、海外で暮らす子どもと夫にひたすら送金してときどき会いに行くという生活。「二拠点生活は悠々自適」と思われがちですが、過労や孤独が深刻化しているキロギアッパたちと同じく、必死です。私のような例はまだ日本では珍しいですが、今後人口も経済も縮小していきますし、どんどん格差が広がっている中で、危機感を覚えている親も多いでしょう。今後は韓国を追いかけるように、多少無理をしてでも子どもの教育のために海外に出る親や、自ら飛び出す若者が日本でも増えていくのではないかと。現実的には教育格差の拡大が一層進むことになるのですが、韓国ではそのような形で英語圏で教育を受けた子どもたちが大人になって、今の韓国の成長を支えているのも確かですよね。音楽業界でもそうした人材がパフォーマーにも制作者にも日本よりも多いからこそ、グローバルに成功している面もあるのではないでしょうか。

 

ハン: 前回、RMのインタビューにも触れましたが、植民地支配から解放されたものの分断され、朝鮮戦争で疲弊し、その後は開発独裁体制のもと、成長に向けて必死で努力する一方、国に見切りをつけて海外へ移民に行く人も多かった。でも最近は、そんな上昇志向に韓国人が疲れてきている気運があって。東方神起のユノの愛読書として話題を集めた『あやうく一生懸命生きるところだった』というエッセイがベストセラーになったり、疲れた人が自身の心の傷と向き合ったり、改めて地域や人とのつながりを求めるようなドラマがヒットしたりもしています。過酷な競争社会の中でグローバル化に励んできた韓国の事例を日本が参考にするべきかどうか、正直、私には分かりません。ただもちろん、お互いのいい部分は学び合えばいいと思いますが。