気質だから仕方ない? トラウマとHSP気質は別物

 

名越 「繊細さん」という枠のなかでそれが説明できると本人は思ってはるんですね。

武田 はい。私がこれまで、繊細な気質とトラウマ症状のちがいを本でしっかり書いてこなかったのも悪かったと思っています。「気質だから仕方ない」と思ってしまうと、本当は解消していける悩みなのに、そのままになってしまうという問題が出てきます。

先ほどの「まわりの人が不機嫌なのが怖い」という話のように、現在抱えている悩みに過去のトラウマが影響していることがよくあります。過去につらい目に遭うと、もう二度とあんな目に遭わないようにと、似た出来事に対して警戒します。職場にいる間中、警戒状態が続いて疲弊してしまう、ということがあるんです。

トラウマとHSP気質は別物なんですが、「過去の経験に似た危険がないか、まわりにセンサーを張り巡らせる」というトラウマの仕組み自体は、繊細さんの生存戦略にも通じるように思います。

繊細さんは、まわりの環境をよく見て慎重に行動します。これは動物の世界でも見られる生存戦略です。ショウジョウバエには2種類の生存戦略があり、ひとつは、いち早く動くことで餌を得るという戦略、もうひとつは、まわりにリスクがないかよく観察してから動くという戦略です。いち早く動く個体が8割、慎重に動く個体が2割いるそうです。繊細さんは後者ですね。餌を取るのは遅くなるけど、他の動物に捕食される可能性も減って、生き延びる可能性が上がるんです。

 


名越 4対1くらいの割合で均衡が取れているわけですね。繊細さんの割合(5人に1人)と同じですね。 

武田 はい。慎重な個体は少数派であることに意味があって、もし慎重な個体が多数派になったらこの特性をもつメリットがなくなってしまう、というところまで研究でわかっています。