お母さん、絶対大丈夫じゃない

 

時間は、もうあまり残されていない――。大好きなお母さんが病を患って入院し、「ただ哀しみの海に浸るように」日々を過ごしていたという美容コラムニストの福本敦子さん。娘と母、そのかけがえのないつながりを最後まで慈しむ姿が、著書『気持ちいいがきほん』では切々と綴られています。

 

久しぶりに電話でお母さんと話した福本さんは、あることに気づきました。

泣きながら「お母さん、会いたい」と言うと、母は「どうしたのよ」と笑いながらいつもの調子で言い、「大丈夫よ」「お母さんは元気だから大丈夫よ」といつもの声で言ってきた。先週、水を飲むのも辛くなったと聞いてたのに、どこが元気で大丈夫なんだろう。もしかして、元気の意味がわからなくなっちゃったのかな。

「お母さんはね、明日退院するのよ」と、宙を見つめるようなか細い声で母は言ってきた。ちなみに明日退院の予定はない。でも「そうなんだ、よかったね。じゃあ待ってるからね」と返事をした。ここまできて私は、これはほんとうに元気かどうかの会話ではなくて、母の、私への愛し方なんだなと気がついた。病気がわかった最初の方からずっと、私が動揺するといつも「大丈夫よ」と、どんな姿になっても母は言ってきた。

コロナ禍でなかなかお母さんとの面会が叶わず、無力感に苛まれていた福田さんに、ある女性はこんな言葉を投げかけました。

「こういうときはね、どっぷり浸かってみるの。そうしたら人間のほんとうのことがわかるよ」

この女性とは、『気持ちいいがきほん』を執筆したもう一人の著者、植物療法士・森田敦子さん。あまりに辛い状況に、母のことと自分のことは切り離して考えよう、と考えていた福本さんにとって、森田さんの言葉は意外なものだったと言います。

二人の“敦子さん”が対談で語り合う、親との最後の向き合い方について、本書から特別にお届けします。

 

福本敦子(ふくもと あつこ)さん/写真左
美容コラムニスト。オーガニックコスメ黎明期のコスメキッチンに14年間勤務後、独立。心地よいリズムの語り口で紹介する「#敦子スメ」は、「読んだ瞬間試したくなる」と反響を呼ぶ。近著に『気持ちいいがきほん』(光文社)がある。【Instagram】@uoza_26

森田敦子(もりた あつこ)さん/写真右
株式会社サンルイ・インターナッショナル/Waphyto代表。大学入学を機に上京し、在学中には中国への交換留学を経験。卒業後は航空会社で客室乗務員の仕事に就くも、気管支疾患を発症する。その治療として植物療法に出会い、本場のフランスで学ぶため退職し渡仏。フランス国立パリ13大学で植物薬理学を学ぶ。2022年には、ELLE誌が選ぶ「世界を変える女性100人」に選出。【Instagram】@atsuko1705