その人の言う「繊細さん」が何を指すのかを注視する

“敏感な気質”は本当に解消できない?「繊細さん」と混同されやすい「トラウマ症状」を考える【武田友紀×名越康文】_img0
 

武田 トラウマによって引き起こされる過覚醒と、気質による敏感さが一見似ているので、「繊細さに困っている」というご相談であっても、実はトラウマの影響で過敏になっている場合があるんです。

ですから、相談者さんが「私は正直、親のせいで繊細さんになったと思う」とおっしゃる場合は、その人の言う「繊細さん」が何を指すのか確認する必要があります。不安感や過覚醒を指しているのであれば、後天的なものの可能性が高いですし、DOES(※)を指しているのであれば、もともと繊細な遺伝子をもつ人なのではないか、と思います。
※DOES(ダズ)…HSPの4つの性質のことで、D=Depth of processing(深く処理する・深く考える)、O=Overstimulation(過剰に刺激を受けやすい)、E=Emotional & Empathy(感情反応が強く、共感力が高い)、S=Sensing the Subtlety(些細なことも気づく)を指す。

また、トラウマの影響で、身体が動かなくなる、うまく考えられなくなるといった低覚醒の状態になることもあります。会議で意見を聞かれるだけで頭が真っ白になってフリーズしたり、お子さんだと、先生に怒られたときに、客観的に見てそんなに強く怒られたわけじゃないのに、ふーっと気が遠くなって気絶してしまうといったことも低覚醒の状態です。 
仕事の悩みであれ人間関係の悩みであれ、背景にトラウマがひそんでいることがよくあるんです。


<参考論文>
1. Genetic architecture of environmental sensitivity reflects multiple heritable components: A twin study with adolescents
Elham Assary, Helena M. S. Zavos, Eva Krapohl, Robert Keers, Michael Pluess, Molecular Psychiatry volume 26, P4896–4904, 2021

2. Sensory Processing Sensitivity in the context of Environmental Sensitivity : A critical review and development of research agenda
Corina U. Greven, Francesca Lionetti, Elaine N. Aron他, Neuroscience and Biobehavioral Reviews Vol. 98, 2019, P287-305

3. Individual Differences in Environmental Sensitivity
Michael Pluess, Child Development Perspectives, Volume9, Issue3, April 2015, P138-143

4. Adult shyness: the interaction of temperamental sensitivity and an adverse childhood environment
Elaine N. Aron, Arthur Aron Kristin M. Davies, Personality and Social Psychology Bulletin, Volume: 31 issue: 2, P181-197, 2005

 

著者プロフィール
名越康文(なこし・やすふみ)さん

近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪精神医療センター)にて、精神科緊急救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。『「鬼滅の刃」が教えてくれた 傷ついたまま生きるためのヒント』(宝島社)、『SOLOTIME~ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)など著書多数。

武田友紀(たけだ・ゆき)さん
HSP専門カウンセラー、公認心理師。自身もHSPである。九州大学工学部機械航空工学科卒。大手メーカーで研究開発に従事後、カウンセラーとして独立。HSPが感性を活かし、のびのびと生きることを大切にしたカウンセリングとHSP向け適職診断が評判を呼び、日本全国から相談者が訪れる。著書に60万部を突破したベストセラー『「繊細さん」の本』(飛鳥新社)、『「繊細さん」の幸せリスト』(ダイヤモンド社)などの“繊細さんシリーズ”がある。

 

“敏感な気質”は本当に解消できない?「繊細さん」と混同されやすい「トラウマ症状」を考える【武田友紀×名越康文】_img1
 

『これって本当に「繊細さん」?と思ったら読む本 HSPとトラウマのちがいを精神科医と語る』
著者:武田友紀、名越康文 日東書院本社 1540円(税込)

傷つきやすい、繊細な感受性をもつHSPの人たち――「繊細さん」の悩みは、もしかしたらトラウマによる症状かも? 精神科医・名越康文さんとHSP専門カウンセラー・武田友紀さんが、「繊細さん」とは何か? そして、繊細さんとトラウマの関係、さらにトラウマを抱えたままどう生きていくか? など、HSPの性質と混同されやすいトラウマ症状について、様々な文献や論文も紐解きながら対談形式で教えてくれる。HSPを知って少し心が軽くなったけれど、まだつらい。そんな人に手に取ってほしい一冊。


写真/Shutterstock
構成/金澤英恵
 

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