平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。

 

第43話 ドクターコール

「機内にお医者様はいますか?」兄弟を連れたお父さんが倒れた!絶体絶命の危機に起こった奇跡_img0
 

「ああ~マレーシアって最高」

クアラルンプールの空港は空調がガンガンきいていて寒いほど。スタンドで買ってきた熱々のホットコーヒーの飲みながら、1人旅だというのに私は思わず独り言。

ゲートで搭乗を待っている、いかにもリゾートへ行きますという風体の欧米人たちにちらっと視線を投げられた。

おっとっと。でも日本語だからセーフ。

これから乗る飛行機は東南アジアの秘境リゾート地に行く飛行機で、日本でよく見る大型飛行機の半分くらいの大きさだ。優先搭乗のアナウンスが英語で始まった。

35歳で東南アジアバックパックの旅に出てか4カ月。逃げるように仕事を辞めて日本を飛び出したときは、まさかこんなに長期間になると思わなかった。せいぜい3、4週間のつもりだった。そしてこんなふうに楽しめるまで回復できるとも思っていなかった。

奨学金の返済もあったし、ハードな環境で働きづめだったから、もちろんこんなに長い「休み」は社会人になって初めて。こういうところが独り身の良いところ。1週間前にマレーシアに入り、クアラルンプールで観光をしたあと、都会のつぎは田舎に行きたくなって移動することにした。

「お待たせいたしました、全てのお客様を機内にご案内いたします」

行き先は南の楽園。私はコーヒーカップをゴミ箱に入れてから、飛行機に乗り込んだ。