人とどうぶつがいたわりあう「さくらの里」
著者の石黒さんが一眼レフのファインダーを覗き、「さくらの里」で4000枚におよぶモノクローム写真を撮るなかで感じとった思いが、冒頭に添えられています。その言葉がとても印象的でした。
人がどうぶつをいたわり、
どうぶつが人をいたわり、
どうぶつがどうぶつをいたわる。
――『犬が看取り、猫がおくる、しあわせのホーム』より
巻末には、「さくらの里」で暮らした歴代の犬猫たちの名前が掲載されています。「チロ」のように同伴入居の子、「ルイ」のように保護犬だった子。東日本大震災の影響で福島の楢葉町から保護された震災被災犬の「むっちゃん」。同じく福島からやってきた震災被災猫「福美」。
犬が19匹、猫が21匹(2023年4月時点)、それぞれの小さな物語を紡ぎながら、「さくらの里」でのひと時を過ごす。このうち「さくらの里」で穏やかに最期を迎えた老猫や老犬も少なくありません。
「高齢者が飼っていたあとに殺処分につながる犬や猫の割合が多い」と伝える本書。「同伴入居」という取り組みを実施することは簡単なことではないかもしれませんが、石黒さんが撮影した109枚におよぶ写真を見つめていると、これから迎える社会で必要なものが何なのか、ぼんやりと見えてくる気がします。
著者プロフィール
石黒謙吾(いしぐろ・けんご)さん
1961年、金沢市生まれ。著書には、映画化されたベストセラー『盲導犬クイールの一生』『2択思考』『分類脳で地アタマが良くなる』『図解でユカイ』『エア新書』短編集『犬がいたから』『どうして? 犬を愛するすべての人へ』(原作・ジム・ウィリス・絵・木内達朗)、『シベリア抑留 絵画が記録した命と尊厳』(絵・勇崎作衛)、『ベルギービール大全』(三輪一記と共著)など幅広いジャンルで多数。プロデュース・編集した書籍は、『世界のアニマルシェルターは、犬や猫を生かす場所だった』(本庄萌)、『犬と、いのち』(文・渡辺眞子、写真・山口美智子)、『ネコの吸い方』(坂本美雨)、『豆柴センパイと捨て猫コウハイ』(石黒由紀子)、『負け美女』(犬山紙子)、『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました』(中本裕己)、『ナガオカケンメイの考え』(ナガオカケンメイ)、『親父の納棺』(柳瀬博一、絵・日暮えむ)、『教養としてのラーメン』(青木健)、『餃子の創り方』(パラダイス山元)、『昭和遺産へ、巡礼1703景』(平山雄)など280冊を数える。
『犬が看取り、猫がおくる、しあわせのホーム』
著者:石黒謙吾 光文社 1760円(税込)
人の死期を悟って看取る奇跡の犬・文福をはじめ、殺処分をまぬがれてやってきた保護犬や保護猫、飼い主の高齢者と共に入居してくる「同伴入居」の犬や猫……。神奈川県横須賀にある特別養護老人ホーム「さくらの里 山科」で暮らす人とどうぶつたちとの30のエピソードを、文章とモノクロームの写真で綴る。
構成/金澤英恵
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