妻を襲った試練と、追い打ち


「これは出産して自覚したことですが、私、予想外のことが起こったり、コントロールできない生活が苦手というか……責任感は強めで、たとえ忙しくても自分のペースでちゃっちゃとやるのは苦にならないんです。でもそうじゃないと途端に不安な気持ちになるタイプでした。産後、びっくりするくらい気分が塞いでしまい、例えば眠り込んでしまって赤ちゃんを死なせてしまったらどうしようというような猛烈な不安に襲われました。振り返れば、ホルモンバランスも崩れ、産後うつのような状況だったと思います」

取材中のいずみさんは落ち着いていて、きっと何でも上手にできるんだろうな、と感じさせるタイプだったため、このエピソードは意外でした。しかし、ご存知の通りお産は楽しく晴れがましいだけのことはなく、生活が一変してしまう大きな契機。それだけインパクトは絶大だったということでしょう、産後うつは誰にでも起こり得ることだと改めて思いました。

ところがいずみさんがSOSを発しても、晴馬さんは一応心配はするものの、深刻に捉える様子はありません。産後うつという言葉は知っていて、「それはホルモンバランスが崩れているんだよ、ほらごらん、赤ちゃんは元気だろう? 心配しすぎなんだよ」と言うばかり。

「頭では妻の状況を分かっているんです、彼は。でも、それに対しての対応が、あまりにも私が求めているものとかけ離れていました。ホルモンホルモンいいながら、原因は分かっているのだからと自分の生活をペースを変えることはありません。私の精神的なバランスが崩れていることを相談してもまたまた~といなされ続けます。

その時点で10年以上の付き合いでしたが、私だけが大ピンチになったのは初めてでした。でも私は、もし逆の立場だったらもっと解決策を試したり、寄り添ったりすると思うんです。勝手なのかもしれないけれど……彼の態度は、私にとっては受け入れがたいものでした」

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いずみさんはお子さんが1歳で保育園に入れるまで育児休暇を取っていました。それもあって、育児担当は妻、と考えたであろう晴馬さん。口では手伝うといいながら、テレワークだったはずの日も夜まで家に戻ってきませんでした。子どもが生まれる前はしばしば家で仕事をしていたので、外で羽を伸ばしているのではと疑ってしまいます。

 

それでも爆発しそうになる不満を飲み込み、必死で平穏な毎日を保とうとしたいずみさん。正確には、ぶつかるパワーがなく、必死で折り合いをつけている状態でした。

そんななかで、ある日珍しく晴馬さんが17時に帰宅します。ちょうど卒乳した直後だったので、ほぼ2年ぶりに一緒にお酒を飲もうと水炊きを準備しました。晴馬さんも饒舌になり、久し振りにいい雰囲気になったと言います。

しかしそこで彼が口にしたのは衝撃的な単語でした。

「ねえいずみはオープンマリッジってどう思う? 簡単に言うとさ、お互いを配偶者として尊重しながら、外で自由な人間活動を認め合うってことなんだって」

最初は彼が何を言っているのかちっともわからなかった、と言ういずみさん。すると晴馬さんは珍しくとても熱心に言いつのります。

「俺たち、10代から付き合っていて、『ほかの世界』を知らな過ぎなんだ。外を見て初めて、お互いの良さが分かるっていうか。俺もいずみのありがたみがきっとわかると思うんだよね。もう俺たちは家族だし。そこは守りながら、世界を広げていけるのがオープンマリッジなんだよ。ハリウッドでも、アカデミー賞の授賞式で奥さんが侮辱されたと司会の男を殴ったウィル・スミス、彼らもオープンマリッジを表明してるんだけど、ウィルはあの一件からもわかるように、奥さんを愛してるだろ?」

……ウィル・スミス夫妻のことはウィル・スミス夫妻にしかわからないし、第一に暴力はダメ。そしてこの人は今、好きな女ができたのだと、静かに確信したいずみさん。

そんな荒唐無稽な話に乗るはずもなく、密かに浮気の証拠を集める決心をしました。ほどなくして、妻の勘はあたったことが判明。夫は23歳の外国人女性と関係を持っていることがわかりました。

後編では、予想外に「本気で」オープンマリッジを実践しはじめる夫と、パニックになりながら抗戦する妻、そして二人の調停の顛末を検証します。

写真/Shutterstock
取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙
 

 

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