平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。
第45話 ドアが開かない
「やった、換気扇もお風呂もぴかぴか~」
年末のお休みの初日。朝から張り切って大掃除をして、気がついたらお昼すぎ。1LDKのマンションを久しぶりに隅々まで掃除ができて達成感!
体力控え目、独身でそこそこ忙しい会社員の私は、貴重な週末をつぶしてしっかりお掃除しよう……なんて気がちっとも起きない。アラフォーになり、休日はのんびり気ままに過ごすと決めていた。だからこそ、年末はけっこう本気で大掃除をする。
マンションの1階、ポストに郵便物を取りにいき、4階の部屋に戻ると、ちょうどお隣さんも玄関から顔を出していて鉢合わせた。
「あ……おはようございます」
目が合ったので挨拶をすると、お隣の「愛人さん」は恥ずかしそうに頭を下げた。すっぴんメガネだけど肌が驚くほど白くて滑らかな美人さん。でも髪の毛は無造作にお団子になっている。挨拶もそこそこにドアは閉まった。
そういえばさっきエレベーターホールですれ違ったのは、いつもびっくりするほどオシャレで、ちょっとスカした感じの彼。隣に住むこの女性を定期的に尋ねているあの男の人。
半年ほど前に越してきた彼女は20代に見える。駅に近いこのビンテージマンションに1人で住むにしては随分と若い。すごくいい会社に勤めてるのかと思ったけど、彼女が出勤している姿を見たことがないし、常に家にいるようだ。そして定期的に訪れる、あの年上の小金持ち風イケメン。私はなんとなく、ワケアリのカップルなのかな? と思っていた。
だって隣の彼女は、挨拶してもいつも伏し目がち。もぐもぐと小さな声で反応はしてくれるけど、なんとなく普通の勤め人じゃないのがわかる。ごく稀にびっくりするほどキレイにして出かけていくけど、ハイブランドを着ていることもあり、普通のOLさんという感じじゃない。それで私は彼女のライフスタイルや様子から「愛人さん」とこっそり呼んでいた。
――それにしても、このマンション買って3年経ったけど、大正解だったなあ。4階建てっていうのもちょうどいいよね。20年ローン、勇気が要ったけど。一生住める自分のおうちって、いいなあ。
私は掃除が完了して綺麗になった部屋を見渡してうっとりする。午後は昨日届いたコタツにもなるローテーブルを組み立てよう。年末年始はこれに入って、ぬくぬくテレビを見るのだ!
廊下には梱包されているテーブルの天板が立てかけてある。明日が最後の資源ごみ回収日だから、今日中に開けて、段ボールを下のゴミ捨て場に持っていこう。
私はそんなことを考えながら、トイレに入った。ドアを閉めて、トイレットペーパーを補充しようと、吊戸棚に手を伸ばしたとき、ドアの外で、どすん! と鈍い音がした。
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