ドアが開かない!


「ひゃ!? え、何!? 泥棒!?」

私は飛び上がるほど驚いた。1人暮らしの習慣で、玄関は必ず鍵を閉めている。この家には誰も入ってこられないはず。でもじゃあなんで、トイレのドアの前で物音が?

私は心臓が飛び出そうなほどドキドキしながら、トイレのドアを外側に向けてそうっと開けようとした。

しかし、ドアはピクリともしない。ノブをガチャガチャしながら押してもだめ。手前には引き込めないタイプだから、こうなると閉じ込められてる!?

「嘘、なんで? 誰かいるの?」

 

毛穴から冷や汗が吹き出した。ドアの外にひとがいて抑えている、という感じの力のかかり方ではない。何か……何かがつっかえてる!?

「テーブルの、天板……!」

宅急便で受け取って、リビングに運び入れてもらうのも気が引けて、玄関を入ってすぐ、廊下に置いてもらった。ちょうど、このトイレのドアの前あたり。

それが倒れたんだ……!

「嘘でしょ!? どうしよう」

私は一気にパニックになり、ドアに体当たりした。この際ドアが傷ついても壊れてもかまわない。しかしドアは動かない。天板は段ボールに入っていて、コタツ仕様になるだけあって10センチほど厚みがあった。あれがもし、廊下の幅とほとんど同じくらいだったら……このドアの外では天板がパタンと床に倒れているのかもしれない。

「誰か! 誰か聞こえますか!」

マンションのトイレで、窓はない。20センチ四方の換気扇のようなところに向かって、私は叫んでみる。

でも、過去にここから誰かの声が聞こえたことはない。無駄な気がした。

「え? これマジでどうしよ……スマホはキッチンだし……ヘイSiri! お母さんに電話して! 119番して!」

私はドアに向けて血管が切れるほど大声を張り上げたけど、スマホのAIが反応した音はしない。

――これって、誰が気づいてくれる可能性、ある?

私は今日が年末年始の休み初日であることを思い出して、喉がカラカラになる。会社は1月8日まで休み。今日から10日以上、会社の人が行方不明を心配してくれる可能性はない。

そして両親は、5年ぶりの海外旅行で、年末年始はハワイに行っている。

腕や背中の毛穴という毛穴が、恐怖のあまり、開くような感覚があった。