歌手であり俳優であり、最近ではプロデューサーとしても活躍する小泉今日子さん。小泉さんが2021年からスタートしたSpotifyオリジナルポッドキャスト『ホントのコイズミさん』は、本や本に関わる人たちと語らいながら、新たな扉を開くヒントになる言葉を探していく番組です。こちらを書籍化したシリーズ3作目『ホントのコイズミさん NARRATIVE』(303 BOOKS)が発売になりました。脚本家の宮藤官九郎さん、人気ポッドキャスト番組『奇奇怪怪』のTaiTanさん・玉置周啓さん、書店「蟹ブックス」店主の花田菜々子さん、哲学者の永井玲衣さんらとの対談が活字と写真でよみがえります。
ポッドキャストは一旦終わりとなり、少しさみしさを感じている小泉さんですが「また何か本にまつわることをやるかも」と意欲もちらり。“NARRATIVE”にちなんで、小泉さんの人生の「今」について、人との対話で気をつけていること、今読んでいる本について聞きました。
何に対しても結論として語らず、経過として語るようにしています。「今の私は、こう感じるよ」「ここに辿り着いているよ」って
——ポッドキャスト番組『ホントのコイズミさん』の書籍シリーズ3冊目。いよいよこれで最終章となるテーマは「NARRATIVE」です。1作目が「YOUTH」、2作目が「WANDERING」でしたが、「NARRATIVE」にはどのような意味が込められているのでしょうか。そもそも、「NARRATIVE」(ナラティブ)という言葉も初めてお聞きしました。
小泉今日子さん(以下小泉):そうですよね、私も馴染みがなくて、3冊目を作るときにいくつかのワードを出版元の303BOOKSさんに提案してもらって、その中にあった言葉でした。「NARRATIVE」を調べてみたら、こんな意味で。
「ナラティブ」は、語り手自身が紡いでいく物語。 主人公は語り手となる私たち自身であり、物語は変化し続け、終わりが存在しない。意味が近いとされる「ストーリー」は、物語の筋書きや内容を指し、主人公や登場人物を中心に起承転結が展開されるため、聞き手はもちろん語り手も介在しない
小泉:物語=ストーリーしか知らなかったけれど、ちょっと意味合いが違うんですよね。筆者自身が紡ぐ未完結のままの物語。結論に持っていかない。それが人生だなと思って。それでこのテーマにしました。
——結論づけない、答えはない。対話においてそれが最も大事なことだと感じています。「ナラティブ」を考えた時、語り手自身が紡ぐもの=SNSとも受け取れ、一億総SNS時代・自分語り時代とも言える今、SNSによって嫌な気持ちになったり、うるさいなと感じてしまう瞬間があるのも事実で、付き合い方・表現の仕方も気をつけないといけないなと思います。
小泉:個人の体験や物語だからこそ感動することがある一方で、すごくネガティブな表現が目に入る時もあります。言葉が暴力的だったり、攻撃的だったり。私は昭和生まれだし、本を読んだりして生きてきたので、その言葉に直接影響されることはあまりないのですが、SNSのそういう言葉の中で生きてきた人は「これからどうなっちゃうんだろう」という不安はあります。想像力や読解力が少し不足しているようにも感じます。暴力的な言葉には、雛形みたいな書き方も多いじゃないですか。特に“怒り”や相手をさげすむような時には、同じ書き方になっていますよね。それが継承されていったら嫌だなと思います。
――小泉さんは、自身が発信をする時に気を付けていることはありますか。
小泉:何に対しても結論として語らないこと。経過として語るようにしています。「今の私は、こう感じるよ」「ここに辿り着いているよ」って。「こうである」「こうでなくてはならない」とは言えないし、言わないほうがいいのかなと思って。私が言っていることが正しいか・正しくないかという話ではなくて、誰かが何かを考えるきっかけになればいいなとは感じています。……ただ、場合によっては、あえて強い言葉を使ってみることもあります。
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