これからの時代に求められるのは「多様な他者と協働・共創する力」

発達障害児と定型発達児が影響し合いながら成長。日本の幼稚園が実践する「インクルーシブ教育」に、海外からも熱い視線!_img0
写真:Shutterstock

「インクルーシブ教育システム」や「特別支援教育」と聞くと、多くの人は「障害のある子どもへの支援」をイメージします。例えば、視覚に障害のある子が普通教室で学べるよう、端末の音声アシスト機能を使うなどの措置が「特別」な「支援」だと考えます。

確かに、そうした基礎的環境整備や合理的配慮が、「インクルーシブ教育システム」であり「特別支援教育」であるのは確かです。一方で、そうした整備や配慮が「障害児のためにやってあげていること」と捉えているようでは、本質を見失いかねません。私自身はむしろ、障害のない定型発達の子どもにこそ、「インクルーシブ教育システム」を実施していくことの意義があると捉えています。

 

これからの時代、日本はますます多様化します。異なる年齢、異なる国籍、異なる個性・特性をもった人たちが協働しながら、実社会を回していかなければなりません。これまでのように、同質性の強い集団だけで生きていくのは難しい時代です。企業にしても、多様な背景をもつ人たちの個性や特性を上手に生かすことが、企業戦略として必要になってくるでしょう。

「VUCA(ブーカ)の時代」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉で、今の世界はそうした時代にあるといわれています。

そうした時代に求められる資質の一つは、「多様な他者と協働・共創する力」です。言い換えれば、同じようなタイプの人間ばかりが集まっても、イノベーションを起こすのは難しいものがあります。仲間のよさを見つけ、それを生かすにはどうすればよいかを考え、ゴールへ向かって行動を共にする。そんな力が必要になってくるといわれています。


加藤篤彦(かとう あつひこ)さん
60年前からインクルーシブ教育を実践している学校法人武蔵野東学園に1982年から勤務。当時、「ベンチャー」的存在だった同学園の小学校で教員を勤めていた5年目に、幼稚園教諭免許をもっていたことから、期せずして武蔵野東幼稚園に園舎主任として異動。2年目から園運営に関わり、2003年より園長。園外では主に教育研究の分野で活動し、東京都私立幼稚園連合会や全日本私立幼稚園連合会での教育研究委員長、公益社団法人東京都幼児教育研修会の理事長などを歴任。現在は、一般社団法人全日本私立幼稚園幼児研究機構の専務理事、東京都私立幼稚園連合会副会長、武蔵野市私立幼稚園連合会長の任にある。また、公益社団法人全国幼児教育研究協会での活動も長く、調査研究部長を経て、同法人本部の理事。文部科学省やこども家庭庁において、これからの幼児教育のための諸課題の検討や、幼児教育の普及のため国行政と各都道府県等での幼稚園・認定こども園団体との連絡調整などに尽力している。平成30年幼稚園教育要領解説執筆協力者。
 

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『みんなを幸せにするインクルーシブ教育: 自閉症児と定型発達児が共に学ぶ武蔵野東幼稚園の挑戦』
著者:加藤篤彦 時事通信社; New版 2200円(税込)

60年前から自閉症児と定型発達児が共に学ぶ「混合教育」を実践する武蔵野東幼稚園。海外からも視察が入るほどユニークかつ効果的な同園の教育の全容を、園長の加藤氏が綴ります。同園の理念や子どもたちの様子を通して、「共生」「多様性」を重視するこれからの社会を生き抜くヒントが得られるでしょう。


構成/さくま健太
 

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