当たり前だけど、ひとりとして同じ人はいない
——アスリートとして、フェアに扱ってほしいということですよね。
三上:私も最初、パラスポーツの取材を始めたときに、何見ても感動しちゃって。でも、見ていくにしたがって、あの選手今日調子悪いなとか、そういうことも感じるようになってくる。だけど、渾身の競技を見ると、もう本当に今日素晴らしかった!!!!って、いうふうになって。
ブラインドサッカーの観戦では、選手は音だけを頼りにプレーするので、観客は静かに見守らなければいけません。声が出せないんですね。でも、ゴールが決まった瞬間、それこそ地鳴りのように叫んで歓喜するんです。おそらく一際声がデカいのは私です。いろいろな競技で、それぞれの楽しみ方があるというのも、取材を通して知ることができました。
——パラスポーツのリポーターをされてみて、良かったと思うことってどんなことですか。
三上:障害にもいろんな障害があって、例えば、私みたいに手に障害がある人もいれば、両腕がない人も、視覚障害の人も、知的障害の人もいる。障害の種類や程度も千差万別だから、ひとりとして同じ人はいないんです。
それに気づいたのと同時に、障害がない人たちも千差万別で、全員違いを持っているんですよね。それがもしかしたら瞳の色かもしれないし、アレルギーかもしれないし、人に言えないコンプレックスかもしれない。障害という名前がついていないだけで、違いがない人なんていないと思うんです。
たまたま障害者と呼ばれる人たちは、それがわかりやすいだけで、誰にだって一人ひとりに私たちが知ることができない様々なドラマだったり、過ごしてきた時間がある。それを知っていくためには、まず自分のことをよく知って、自分のことを相手に伝えること。自分のことを知って伝えた分しか、相手も自分のことを伝えようとは思ってくれませんから、知ることはできないんです。
パラリンピックの取材を通して、様々な違いに出会えたことによって、自分の違いをきちんと知りたいというふうに思えることができた。それを言葉にして誰かに伝えることができた。そうして、自分の目の前の扉がたくさん開いていったことが、パラリンピックの取材を通して、自分が得られた素敵な経験だったなって思います。
『ひだりポケットの三日月』
著者:三上大進 講談社 1540円(税込)
「生まれつき、左手指が2本しかありません。右手の5本と合わせて、不恰好ですが、合わせてラッキーセブンの7本指」――。スキンケア美容家の著者が、今までの歩みの中で味わったやりきれない気持ち、自身の変化、そしてNHKパラリンピックのリポーターを務めた経験から得たものなどを素直な言葉で綴る。「自分のことが好きで、自分のことが嫌いな、世界に一人の貴方へ」贈る、美しく優しいエッセー。
撮影/水野昭子
文/ヒオカ
構成/金澤英恵
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