湧き上がる本当の気持ちは…
言いたいことはたくさんあるのに、結局うまく言葉にできないまま電話は終わった。
どうして私はこんなに意気地がないんだろう。夫が不貞を働いたとき、もっと世の中の妻はうまく立ち回っているような気がする。
さっさと離婚して、慰謝料をもらって、やり直したほうがいいんだろうか。
頭ではわかっているつもり。でもどうして私がそんなことをしてあげなくてはならないのか、納得できなかった。
子どもたちは可愛い。命より大事。だから引き取ることに迷いなんてない。実際にこの1年、そうするための予行演習をしていたようなものだ。
彬が単身赴任中に浮気をしていることは、なんとなくわかっていた。ただ、任期は2年とわかっていたから、それまでの辛抱。そう言い聞かせていた。
でも、私は2度、裏切られた。いよいよ2年が経つというとき、夫はとんでもないことを口にした。
「好きなひとができて、気持ちは変えられない。別れてほしい」
別れる? 別れて、あなたは新しい恋を謳歌して、私はシングルマザーでカツカツの生活? 仕事も絶対に辞められない。絶対に辞められない会社員生活、は2馬力の共働きとは違う重圧がある。なにより子どもたちはまだ小学生。働きながら私がひとりで育てることなんてできるんだろうか。これ以上、頑張ってきた子どもたちに負担をかけたくない。
不公平すぎる。悔しいし怖い。ずるい、悔しい。
中ぶらりんのまま、そんな気持ちに囚われた1年間だった。そう思ううちは絶対に判は押さない。それに恋だ愛だなんて言ったって、そのうち醒める。そのときに、何事もなかったように戻れる家族があれば、戻ってくるかも。
それで子どもには「単身赴任」が続いているということにした。彬には「離婚するにしても時間をかけたい、せめてもう少し翔太が大きくなるまでは、お父さんが自分たちを捨てたなどと思わせたくない」と懇願した。
彼も月に1回、何食わぬ顔で週末に「帰宅」することは子どもに会えて都合が良かったのだろう、承知してくれた。完全な悪者になるのが怖い気持ちもあったはずだ。
本来は、そういう平凡な人。不倫の挙句に家族を子どもごと捨てるようなタイプじゃない。今がのぼせてイレギュラーなだけ。そう言い聞かせてきた。
ところが彼の足はこの家から少しずつ、でも確実に遠のいていった。
――もうごまかし続けることはできないな……。
私は観念して、深呼吸をした。
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