岸田文雄首相が9月に行われる自民党総裁選への不出馬を表明しましたが、一方で、10人以上が出馬に意欲を示すなど、異例の事態となっています。同じ派閥から複数の人物が名乗りを上げており、いわゆる派閥政治の解消が進んでいるようにも見えますが、長老がいかに影響力を残せるのかという駆け引きも見え隠れしていますから、自民党が本当に変われるのかは何ともいえません。

岸田首相の不出馬は「影響力維持」のため?大激戦の裏で続く“長老政治”、首相経験者たちの思惑は【自民党総裁選】_img0
写真:代表撮影/ロイター/アフロ

岸田氏は2024年8月14日に突如、不出馬を表明しました。このタイミングでの発表は予想されておらず、慌てた関係者も多かったようです。永田町では岸田氏が出馬しないという説が出ていた一方、総裁選は勝てる見込みがあるので、出馬するだろうという予想も少なくありませんでした。

従来の派閥力学が続いた場合、岸田氏の国民からの支持率が低くても、岸田氏を倒す有力候補が出てこない限り、総裁選で勝てる見込みはそれなりにあったといえるでしょう。こうした派閥政治の良し悪しは一旦、置いておき、ある程度、勝てる見込みがあったにもかかわらず、なぜ岸田氏は不出馬を決めたのでしょうか。本当のところは岸田氏のみが知るところですが、来年10月までには必ず実施しなければならない総選挙の結果を意識したからというのがもっぱらの見方です。
 

 


仮に総裁に再任されても、次の選挙で大敗すれば、一気に総裁の座から引きずり降ろされるシナリオが否定できません。ここで先手を打って自ら出馬しないと表明すれば、辞めさせられた形にはならないという仕組みです。当然ながら、その背後には、今後も長老としての影響力を維持しておきたいという岸田氏の野心が見え隠れします。

近年の自民党は、首相経験者を中心としたいわゆる長老が大きな影響力を持っており、こうした政治力学がしばしば国民の感覚と相違し、支持率の低下につながっている面が否定できません。

表面的には派閥政治がなくなり、大激戦になっているように見える今回の総裁選においても、よく観察すると長老政治の力学が見え隠れしています。

岸田政権は、岸田氏自身が率いる宏池会を中心に、麻生派トップの麻生太郎氏、茂木派トップの茂木敏充氏が支持する形で成立していました。麻生氏は岸田氏を支持することで重鎮としての影響力を残したいと考えており、明言はしないものの、次の首相として茂木氏支持を匂わせることで、茂木氏もうまくコントロールしていました。

一方、党内最大勢力の安倍派は、岸田政権の成立以後、政権との関係が微妙になっていました。

 
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