人生100年時代を現実として捉えたとき、目の前にはさまざまな問題が立ちはだかります。老後を安心して過ごせるお金と住まい、健康に日常生活を送れる心と体……。今は生き生きと過ごしたい、その延長線上で“将来はすんなり逝きたい”と願う人がきっと大半ではないかと思います。ですが、そのために私たちはどんな準備をすればいいのでしょうか。
そこで今回は、後悔なく老いるために必要なことを“8人の専門家”が解説する書籍『死に方のダンドリ』から、緩和ケア医・大津秀一先生の言葉を特別にご紹介します。終末期の患者さんたちが教えてくれた、悔いなく人生を全うするための準備とは——?
「思い残すことはありません」と言い切れる患者さんは多くない
私の職業は「緩和ケア医」です。これまでに約3000人の患者さんの最期と向き合い、主にがんの患者さんを対象にその心身の苦痛を和らげる仕事をしてきました。特に末期のがん患者さんを苦しめるのは身体的苦痛です。お話をよく伺い、おおかたの場合、薬などを使ってその苦痛を取り除いていきます。
しばしば厄介なのは、精神的苦痛です。これは医師の力だけではどうにもなりません。患者さんから示される悩みは、もはや残された時間と体力では解決できないであろう問題も少なくないからです。私にできるのは、患者さんのお話にじっと耳を傾けることが中心となります。
人はいつ死ぬかわかりません。死ぬときに後悔しないようにするためには、私たち一人ひとりが健康なうちから悔いのないように生き、後悔を残さないように準備しておくよりほかありません。
人間は、後悔なしに生きることはできないと私は思っています。私が最期を見届けきた患者さんたちは大なり小なり、なんらかの「やり残したこと」を抱え、後悔していました。
そうした患者さんと何千人も接する中でわかってきたことがあります。それは「明日死ぬかもしれない」と思いながら生きてきた人は、悔いを残さぬためには何をしたら良いのかという思いが行動にもしばしば反映されて、後悔が比較的少ないのではないかということです。しかも、みなさんが終末期に抱える後悔は意外と集約され、後悔する内容はだいたい決まっていることもわかってきました。
私の見てきた限り、いまわの際に「先生、私はもう思い残すことはありません」と言い切ることのできた患者さんは決して多くありません。そうした人たちは、世間一般で考えられているよりずっと前から後悔を残さないように「準備」を進めてきたように見えました。どの方も、いつ死んでも悔いが最小限になるように、問題を後回しにしない生き方をされていたのです。
死はいつ、誰に、どのようにやってくるかはわかりません。突然やってきた死期を目の前にして後悔することのないよう、私たちは常日頃からダンドリをつけておくべきでしょう。
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