「どうするの?」の問いに「どうしましょう?」と返事した夫
——結婚16年目にアキラさんのASDがわかった、とおっしゃっていました。日々の些細なすれ違い以外に、何か大きな出来事があったのでしょうか。
野波:決定的だったのは、アキラさんが会社を突然辞めたことですね。ある日外から帰ってくるなり、「辞めてきちゃいました」とサラッと報告されました。「え? これからどうするの?」と聞いたら、逆に「どうしましょう?」と聞いてきたんです。社長と反りが合わなくて、「もうあの人の下で働きたくない」と毎日のように愚痴は言っていたけれど、落ち込んでるな、元気がないなと感じることはなかった。だから、アキラさんが会社を辞めるなんて思いもしませんでした。
一体何があったのか聞いてみると、「社長に嫌な態度を取られたから、“私はこの会社を辞めた方がいいのでしょうか?”と聞いたら、社長が“そうかもしれないね”と言ったので辞めてきちゃいました」と……。子供にまだお金がかかる頃でしたし、会社を辞めた後に「実は借金があります」と打ち明けられて。最終的にはそれがきっかけで、ASDの発覚へと繋がっていったんです。この人が何を考えているのか全然理解できない——そんな恐ろしい感覚すらありました。
——本の中でも、「言葉通りに受け止める」という特性が書かれていましたが、まさにその実例という感じだったのですね。
野波:アキラさんはそれまで、先輩や目上の人たちから「面白いやつだ」と言われてかわいがられてきた経験があるんです。「自分に優しい人」にはとても従順な反面、「自分に厳しい人」には敵対心を持ってしまう。本にも書きましたが、アキラさんのような特性を持つ人は、無意識に「敵」と「味方」を分けがちになるんです。かつて勤めていた会社では、「遅刻を責められた」という理由で、その社長を大嫌いになりました。
アキラさん自身は困っていないのに、「周りが接し方に困ってしまう」という状況が生まれるのが、発達障害・グレーゾーンの周りにいる人たちの辛さでもあると思います。
インタビュー後編「“夫の手綱”を妻が握らなくたっていい。発達障害のパートナーとの関係に疲れたときの“自分の守り方”」【野波ツナさん】」は10月22日公開です!
著者プロフィール
野波ツナ(のなみ・つな)さん
東京都生まれ、漫画家。少女漫画アシスタントなどを経て青年誌でデビュー。アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)のある夫との日常を綴った『旦那さんはアスペルガー』(コスミック出版)シリーズは累計20万部に達する話題作となった。他の作品に『うちの困ったさん』(リイド社)などがある。
『発達障害・グレーゾーンの あの人の行動が変わる言い方・接し方事典』
著者:野波ツナ 監修:宮尾益和、滝口のぞみ
『旦那(アキラ)さんはアスペルガー』で20万部を超えた著者が贈る、日常に役立つ本格実用書。発達障害の人、未診断だけどその特性がある人に対して、効果的な「言い方」や「接し方」をわかりやすく紹介。「指示は必ず『肯定文(〜して)』で伝える」「『ありがとう』は波状攻撃で」「直してほしいことは『パワートーク』で指摘」など、わかりやすい四コマ漫画やイラストを交えながら、65の具体的なテクニックを教えてくれます。
イラスト/野波ツナ
取材・文/金澤英恵
協力/中満和大(こころとからだチーム)
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