異例の大ヒット『シビル・ウォー』ネタバレ解説。分断深まる近未来のアメリカを描いたこの映画は、どこの国にも起こり得る結末を予言している_img0
「シビル・ウォー アメリカ最後の日」(2024) 写真:Everett Collection/アフロ

その、暴力的で混沌とした殺戮の現場にプレスパスを着けたリーたちが乗り込んで行くのは、一種異様な光景です。この映画は、戦場カメラマンを戦地に介入させることによって、軍服を来た軍人ではない一般市民の目を通して、我々に戦争を目撃させていく。それによって遠い戦地ではなく、Wi-Fiが繋がらないと文句を言いながらNYのホテルに滞在する日常のすぐ横で市街戦が起きていること、これは「市民」による戦いであることを生々しく浮かび上がらせ、まるで戦争に関係のない私たち観客までもがその場にいるかのような臨場感を高めています。

 


リーたちの役目は、善悪をジャッジすることや誰かを助けることではなく、ただ「記録すること」。しかしそんな役割に、ベテランカメラマンのリーは無力感を覚え始めます。自分たちが世界に発信し続けても、争いを止めることはできず、こうして終末に向かっているではないか。

南北戦争を経験しているアメリカ人にとっては、この映画のような内戦は、より切実で差し迫った危機として映るでしょう。大統領選でさらに分断と対立が深まる今日のアメリカでは、こんな内戦がいつ起きてもおかしくない。みんなそんな不安や恐れ、怒りを抱いているから。

異例の大ヒット『シビル・ウォー』ネタバレ解説。分断深まる近未来のアメリカを描いたこの映画は、どこの国にも起こり得る結末を予言している_img1
「シビル・ウォー アメリカ最後の日」(2024) 写真:Everett Collection/アフロ

緊張感あるホラーのようなこの映画で、最も怖かったのは、赤眼鏡をかけた、残忍な軍人のシーン。「お前はどの種類のアメリカ人だ?」。回答次第では殺されてしまうかもしれない、シンプルだけどトリッキーな質問(あのシーンでは何が正解かわからず、ひとりが答えるたびに黒髭危機一髪に剣を差し込んでいるときのような緊張感が走りました)。様々な人種やイデオロギー、宗教の人々が集まるアメリカでは、かなりリアルで恐ろしい問いに違いありません。

劇中ではカリフォルニアとテキサスの連合軍「WF」と政府軍が戦っていますが、この争いではもはや対話は成立せず、階層が違う相手はその場で射殺されるという無慈悲な世界。

これはイスラエルが国際法を無視して、軍事力によりガザやレバノンの一般市民を虐殺している現状を鑑みれば他人事ではないし、どの国でも起こりうること。そんな不穏な空気を感じている人々が、ある種の戒めのようにこの映画に集まり、予言、もしくは救いを見出そうとしたように、私には感じられました。