長生きしたと思ったことないのに108歳。
「考えすぎない、余計なことで悩まない」は大事

「あぁ、今日もよく働いたなあ」を繰り返して、気づけば108歳に。現役理容師・箱石シツイさんが語る“生涯現役”人生の秘訣_img0
2021年3月、104歳のとき、東京オリンピックの聖火ランナーに。記念にもらったトーチは、なんと身長の半分以上。かなり重いことに驚いたそうです。

「もういくつ寝るとお正月〜」って歌がありますよね。尋常小学校で習いまして、友だちや姉たちとよく歌ったものでした。わたしの子どもたちと歌ったこともありましたかね。でもね、わたし、そんなふうに日にちを数えたことがないような気がしますねぇ。その日その日、一日一日が精一杯でしたから、先のことまで考えて楽しみにする余裕がなかったのかもしれません。だから、自分の年齢もあまり気にしたことがないんですよね。

子どもの頃は学校に上がる前から親の手伝いをして働いていましたし、奉公に出て、それから理容師の見習いになって理容師になって。結婚して、戦時下をなんとか生き延びて、でも夫を戦争で失い……。あとは子どもたちを育てるために一生懸命、ただただ働いてきました。60歳くらいまでは毎日毎日、本当に働いて働いて働いて働いて、その日のこと、目の前のことをやるだけの暮らしでした。それなので、大変だとかつらいとか、そんなふうに感じるよりも「生活とは、そういうものだ」と思っていました。

 

夜になるとね、「今日も無事に終わりました、ありがとうございます」と、仏壇の夫に手を合わせてから眠ります。そして目が覚めて、朝になってたら新しい一日が始まっているから、またその日にやることを、きちんとやる。そのくり返しでした。そうして気がついたら108歳に、というのが実感です。

「あぁ、今日もよく働いたなあ」を繰り返して、気づけば108歳に。現役理容師・箱石シツイさんが語る“生涯現役”人生の秘訣_img1
1世紀分の深みをたたえた笑顔。

こんな話をしますとね、みなさん笑うんですよ。「108年も生きて、そんなはずないでしょう?」って思われるんでしょうか。でも本当にそうなんです。年齢を意識せず、余計なことを考えすぎなかったからこそ、ここまで生きてこられたのかもしれません。困難も多かったので無我夢中、結果的にそのように生きてきてしまった、という感じなんですけれど。だから「考えすぎない、余計なことで悩まない」って、とても大事だと思うんですよ。

著者プロフィール
箱石シツイ(はこいし・しつい)さん

理容師。1916年(大正5年)生まれの108歳。理容師生活94年。世界最高齢の現役理容師に認定される。12歳で奉公に出て、14歳で上京。理髪店で働きながら理容師資格を取得。22歳で結婚し、東京・下落合に理髪店を開業。2児をもうけるも長女は脳性麻痺に。1944年、夫が軍隊に召集され戦死。実家に疎開の相談に行った夜に空襲で理髪店は焼失。その後、故郷の栃木県那須郡那珂川町に戻り「理容ハコイシ」を開業、70年以上営業を続けている。102歳までひとり暮らしで身の回りのことはすべて自分でこなした。常連のお客さんが来れば今でも店に出る。2021年の東京五輪では息子と二人三脚で聖火ランナーを務めた。

「あぁ、今日もよく働いたなあ」を繰り返して、気づけば108歳に。現役理容師・箱石シツイさんが語る“生涯現役”人生の秘訣_img2
 

『108歳の現役理容師おばあちゃん ごきげん暮らしの知恵袋』
著者:箱石シツイ 宝島社 1430円(税込)

理容師歴94年を誇り、世界最高齢の現役理容師としてギネスに認定されている108歳の箱石シツイさん。2021年の東京オリンピックでは104歳で聖火ランナーも務め、その前向きな姿勢が注目されています。生き方のモットーは「いつも機嫌良く、考えすぎない、悩まない」こと! 12歳で奉公に出て、戦争による自宅焼失や夫の戦死、長女の重度の脳性麻痺などの困難を乗り越え、今なおハサミを握り続ける108歳の現役理容師の、人生哲学と生きる知恵が詰まった1冊です。


撮影/栗栖誠紀
構成/金澤英恵
 
「あぁ、今日もよく働いたなあ」を繰り返して、気づけば108歳に。現役理容師・箱石シツイさんが語る“生涯現役”人生の秘訣_img3